取り戻すべきもの
この記事は約 2 分で読めます。
新型コロナウイルスの世界的な蔓延がなければ、今頃は東京パラリンピックが行われているところでした。
その真っ只中の期間に安倍晋三首相が辞意を表明したのは、予期できなかったこととはいえ、全くもって皮肉なことと言わざるを得ません。
東京オリンピック・パラリンピックの成功の興奮を、悲願の憲法改正につなげたいと考えている節がありましたので、無念さもひとしおではないかと推察します。
しかし、安倍政権が残した課題は、やり残したものより、修復しなければならないものの方が多いように思えてなりません。
その中で特に挙げるとすれば、「法の支配」や「法治主義」の意味が誤解され、すっかり「人の支配」、「人治主義」が横行して、それが当たり前のように受け止められるようになってしまったことではないかと思います。
金曜日の辞意表明以来、次の首相候補について賑やかに語られていますが、誰になろうとも、「法の支配」、「法治主義」が失われつつある、あるいはすでに失われているという現状認識を持たないとすれば、さらに状況は悪化することになります。
そしてもう1つ深刻な事態は、言葉を通じての対話が成り立たなくなっている、ということではないでしょうか。
人は世の中の事象を言葉によって表現し、対話を通じて概念を共有することで社会を成り立たせてきました。
ところが、安倍政権下で見られた国会質問や記者会見では、質問に対して正面から答えるのではなく、あらかじめ用意された原稿を繰り返し読み上げるか、質問の趣旨と異なる発言をして実質的に答弁を回避し、最後は「いずれにしましても」というマジックワードを持ち出して、一方的に話を切り上げる、そんな手法を用いていたのは首相1人ではありませんでした。
現在進行形のコロナ禍に対する対応についても、国会審議を重ねて特措法などの立法措置をしなければ、法に基づく十分な施策は講じられないと言われていましたが、野党からの憲法53条に基づく臨時国会召集要求に対しても、応じようとすることさえありませんでした。
徹底して対話を拒絶してきたのです。
対話が成り立たないところに、民主主義は存在できません。
民主主義をただの多数決と短絡することが、社会に分断と憎悪をもたらしている例を発見することは容易です。
「日本を取り戻す」というフレーズから始まった約8年間のうちに失われたものを、これから積み直していかなければいけないと思うのですが、取り沙汰されている次期首相候補者の名前に、マスクの中で思わず深いため息をつくことを禁じ得ませんでした。
関連記事
-
成り駒のルール
藤井聡太七段の登場以来、将棋がちょっとしたブームになっています。かつては羽生九段 …
-
噴出するセクハラ問題
財務事務次官によるセクハラ問題は、本人の辞任で事態が収束するどころか、今まで表に …
-
2つのマクドナルド理論
アメリカのジャーナリスト、トーマス・フリードマンが提唱した外交理論に、「マクドナ …
-
後悔先に立たず
「イギリス、EUやめるってよ」 というタイトルのブログが乱立するだろうなあと思っ …
-
夏の終わりに
前任の総理大臣が退陣表明をしてから、早いものでもう1年が経過しました。 あれから …
-
目的も違うし必要性もない
はやりのゲーム機を欲しがる子供が、「みんな(そのゲーム機を)持ってるから、持っ …
-
ワクチン接種とマスク
新型コロナ対策では、高齢者を皮切りにワクチン接種が進められていますが、そのせいか …
-
英国が欧州連合離脱へ
正直、ほとんどの人はこの国民投票の結果を予想していなかったのではないかと思います …
-
元号と長さと温度
5月1日からの新しい元号が発表されました。 「令和」という新元号そのものについて …
-
迫る改元
裁判所では受理した事件(案件)ごとに「事件番号」といわれる固有の番号を振って事件 …