朝三暮四
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「朝三暮四」という故事成語はご存知ですね。
中国は春秋時代の宋に狙公という人がいて、猿をかわいがり、たくさんの猿を飼っていた。
ところがにわかに貧しくなってしまって、猿にやる餌を減らさなければいけなくなった。
そこで、猿たちを呼んでこう告げた。
「餌のドングリを朝は3つ、夕方に4つだけやることにする。」
これを聞いた猿たちが怒り出したので、狙公は続けてこう言った。
「では朝は4つ、夕方3つということにしよう。」
猿たちはこれを聞いて頭を下げて喜んだ。
この話を聞いて、
猿って単純だよな。
もらえるドングリは同じ数なのに、最初にもらえる数が増えたからって喜んじゃって、だまされてるだけじゃないか。
と反応するのはちょっと待って下さい。
たしかに猿はだまされているのですが、だましたのは狙公ですよ。
だまされる猿も猿ですが、こんな口先でだました狙公のやり方は、貧しくて餌を減らさなければいけなくなったという事情はあるにせよ、卑怯ってものではないですか。非難されるべきは、狙公の方です。
* * *
さて、冬季オリンピックのニュースの影に隠れてしまっていますが、目下国会では「働き方改革」関連法案に関する審議が続いています。
「裁量労働制で働く方が労働時間は短くなるというデータもある」という安倍首相の国会答弁が撤回されました。
その理由は、比較すべきでないデータの比較に基づいて、「労働時間は短くなる」と答弁したことが明らかになったからでした。
一般労働者には最長の残業時間を聞き、裁量労働制で働く人には単に労働時間を尋ねた結果を比較したというのですから、話になりません。
猿ならだまされるかも知れませんが、国民もこの程度でだませると思っていたならとんでもないことです。
* * *
朝三暮四の世界に戻って、もし猿たちが狙公の言葉にだまされなかったらどうなっていたでしょうか。
3つだろうが4つだろうが、結局1日7つで同じじゃないか。
そんなことにはだまされないぞ!
猿たちが抗議の声を上げるのに対して、狙公はこう応じるかも知れません。
そうかい、気付かれちゃあしょうがねえ。
そうよ、こっちは7つ以上くれてやるつもりなんかはなっからありゃしねえんだ。
ただな、そこまで言われちゃあこっちの顔が立たねえ。
こうなったらもう金輪際おめえたちにドングリなんぞ1粒だってやるもんか。
ヤならどこへでもとっとと行きやがれ。二度と戻ってくんな、こん畜生め。
おう母ちゃん、塩だ。塩持ってこい。塩まくんだよ。
ああ、せいせいした。
狙公が江戸っ子口調なのはさておき、逆ギレってやつですね。
親切心でかわいがっていたのに、しかも、怒らせないように上手に言ったつもりなのに、すっかり見透かされて図星をつかれたとなると、逆ギレすることもあるでしょう。
ただ、これは朝三暮四の世界の話。
国会審議の場で痛いところをつかれても、逆ギレしてはいけません。
データが誤っていたのなら、正しいデータに基づいて再検討し、本当の意味での「働き方改革」を目指すのが王道ってものでしょう。
間違っても、
一々細けえこと言いやがって、そうやって俺たちがやろうとすることを邪魔するのがおめえたちの魂胆だろう。こっちはみーんな分かってんだ。
いいか、そんな重箱の隅をつついたくらいのことで調子に乗んなよ。
こっちは頃合いのいいところで審議を打ち切って強行採決するくらい簡単なんだ。
そん時になって吠え面かいても知らねえぞ。
なんてことは決して思わないことです。
狙公のドングリと違って、政治は為政者の施しとしてするものではないのですから。
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