元号と長さと温度
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5月1日からの新しい元号が発表されました。
「令和」という新元号そのものについてコメントするのは控えますが、新元号発表から丸1日が経過した感想としては、社会やマスコミが騒ぐのは仕方ないにしても、政府、特に首相が、自らの成果のように所感を述べ、マスコミのインタビューに答えているのは、ちょっといただけないな、と、そんなふうに思いました。
元号は、いずれ新天皇の諡(おくりな)となることが予定されているものですから、政府関係者が自分の手柄のように「ドヤ顔」するのは、あえて天皇の政治利用とまで言わないまでも、品のないことのように感じられるのです。
さて、前の記事にも書いたように、コンピューターで処理される世界では、元号で年表記をするよりも、西暦の方が合理性の面では優位であろうと思われます。
世の中にコンピューターが登場してから2度目、広く普及してからは初めての改元になりますが、方や西暦の方はその間一度も変わっていない(当たり前ですが)わけですから、単位が変わることによる換算を行うことなく整然と計算できる西暦を採用した方が、手順も少なく、安全でもあると言えるわけです。
新元号発表の当日、外務省が省内では原則として和暦ではなく西暦を使うことを検討しているというニュースが流れたのも象徴的です。
もっとも、だからといって元号が全否定される必要はないと思います。
時の流れを区切る単位には、世紀、年、月、日、時、分、秒とあるわけですが、この単位は元はといえば天体の動きから計算されたものです。しかし、人の身体感覚としての時間は、必ずしも天体の動きとは一致しません。体内時計は1日24時間とはずれているそうですし、細かな時間の刻み方は、歩くときの足の運びや、脈拍、呼吸の方が身体感覚としては馴染みやすいと言えなくもありません。
その証拠に、音楽のテンポで「Andante」(イタリア語)というのがありますが、これは「ゆっくりと歩くはやさで」と翻訳されています。8分の6拍子も、乗馬の際の駆歩(かけあし)のリズムだと聞いたことがあります。
時間だけではありません。アメリカやイギリスなどで定着している長さの単位(フィート、ヤード、マイルなど)は元を辿れば人の体のサイズから生まれたものとされていますし、温度の単位である華氏もファーレンハイトさんが自分の体温を100度、一番寒い日を0度としたのが始まりとされているように(諸説あるようですが)、身体感覚に根ざしたものさしは、受け入れると案外快適なのかも知れません。
今でこそ平均寿命は長くなっていますが、それでも1世紀100年を生きる人は限られています。そうであれば、数十年単位の時間を区切る方法として、人の人生の節目になぞらえた単位があっても、あながちおかしいとは思えません。
元号は、元号法により、「皇位の継承があった場合に限り改める。」とされています。
皇位継承までの期間を、世代交代までの期間(兄弟間の皇位継承などには当てはまりませんが)という見方をすれば、これはそういった地位にない国民にとっても、一つの時代を区切る長さとして、ほどよいもののようにも思われます。
もちろん、元号はあくまで皇位継承の区切りを示すもので、ひとりひとりの国民の人生と一致するものではありません。でも、考えてみると、自分以外の人生の区切りを、自分の人生のものさしにすることは珍しくありません。
過去の出来事を思い出すときに、子供の成長に合わせて覚えている方は多いように思います。例えば、
「あれは長男が小学校を卒業する春だったから、平成◯年」
とか、
「その年の冬に子供たちを初めてスキーに連れていったから20XX年」
というような具合です。
友人が結婚した年、親を亡くした年、身近な人ではなくても、有名スポーツ選手が現役を引退した年なんていうのも、ものさしになっている方はいらっしゃるのではないでしょうか。
その意味で、象徴天皇(日本国憲法第1条)の在位期間に元号を冠する仕組みは、合理性からすると不利ですが、杓子定規ではない生活の中では、案外うまく機能しているようにも思います。
ただし、使用を強制されなければ、という留保付きですがね。
国旗や国歌もそうであるように。
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