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紳士淑女ではない人も

 

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「Ladies and Gentlemen」(レディース・アンド・ジェントルメン)を直訳すると、「淑女並びに紳士のみなさん」ということになりますが、紳士だの淑女だのという意味は薄れて、「(ここにお集まりの)みなさん」という程度の呼びかけに使われるのがほとんどでしょう。

今日のニュースによると、ニューヨーク市内の地下鉄やバスの乗客に呼びかける車内アナウンスに用いられていた、「Ladies and Gentlemen」のフレーズが禁止されたのだそうです。これは、いわゆるLGBTなど性的少数者への配慮から、女性・男性という区別に基づいた言い回しを改めたものと考えられていますが、ニューヨーク交通公社(MTA)によれば、「乗客によりよく、より正確な情報提供をするために、根本的な見直しをした」ということだそうで、たしかに、乗客ではあるけれど、性自認として女性でも男性でもない人からすれば、「私は対象外なの?」と思ってしまうかも知れません。
ロンドンの地下鉄などでもこうした見直しは始まっているそうです。
だいたい、“Passengers”(旅客)、“Riders”(乗客)、“Everyone”(みなさん)で十分通用しますからね。

冒頭に書いたように、「Ladies and Gentlemen」というフレーズにはもはや性別の意味はあまりなくなっているのだとすれば、性的少数者を排除する表現だ、と目くじらを立てるのはやり過ぎだという意見もあろうかと思います。
でも、そういう意見の裏側には、今まで何も気にせずに使えた言い回しを変えなければいけない面倒くささとか、自分では気にしてもみなかったことを問題として指摘された時に感じる後ろめたさとか、そういった感情があるように思います。
たとえて言うならば、昔はごみはみんな1つのごみ箱に放り込んでいたのに、可燃ごみと不燃ごみに、さらには有害ごみ、紙ごみ、プラスチックごみ等々に分別しなければならなくなったような、ペットボトルをプラスチックごみに捨てようとした時に、「それは資源ごみです」と叱られるような、そんな感じ。
もっと言うと、「なんだ、そんな優等生ぶりやがって。昨日までそんなこと誰も文句言ってなかったのに、いきなりこっちがまるっきり悪者じゃあないか」というような反発したくなる気持ち。

正直なところ、そういう感情もよく分かります。
もっとも、分かるといっても、支持するということではなく、理解できるということですが。

少数者というのは、多数者には見えない視点を持っていますから、とても貴重な存在です。「Ladies and Gentlemen」なんていうありふれた言い回しに心を痛めるなんて、言われて初めて「ああそうか」と気付くことかも知れません。元の意味が薄れているなんてのは、感覚が麻痺していることを言っているに等しいわけです。
「気付き」を与えられて、考え直してみると、わざわざ紳士だ淑女だと言う必要はなく、「ご乗車中の皆様にお知らせします」で全く問題ない、それどころかよっぽど正確(紳士淑女然としていない乗客もいますしね)だということになれば、一瞬感じた面倒も後ろめたさも反発も、まったく身勝手なことだと思い至ります。

これも、ポリティカル・コレクトネス(政治的に正しい言葉遣い)のひとつということになると思いますが、社会なんて常に未完成で、修正を重ねながら、よりよいものに変化・発展していく(「取り戻す!」なんてことではなく)べきものですから、社会のセンサーとしての少数意見はいつだって軽んじてはいけないと思います。

ところで、aikoがライブで、「男子ー!」「女子ー!」「そうでない人ー!」って呼びかけるのって、アレも会場にいる全員もれなくレスポンスできるようにしているんでしょうね。実際、ポリコレなんて難しく考えるものじゃなく、大切なのはこんな軽やかなセンスなのかも知れません。

 - 社会

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