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刑事手続原則と一般国民感情

 

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 ここ最近ネットやワイドショーを賑わせている話題の一つに、東名高速路上でワゴン車が進路妨害を受けて無理矢理停車させられた挙げ句後ろからトラックが衝突し、ワゴン車に乗車していた夫婦2人が死亡、同乗の娘2人が怪我をしたという事件があります。

 先日、進路妨害をした乗用車を運転していた男が過失運転致死罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条。以下,「自動車運転死傷行為処罰法」と言います。)の被擬事実で逮捕されました。

 この被疑者については逮捕時点から一気に実名報道がなされ、ワイドショーのコメンテーターのコメントやネット上のコメント欄では「これは殺人だ」、「何故殺人で裁けないのか」という意見が見られます。

 確かに事故の内容を聞くと非常に痛ましいものです。しかし、12日に送検されたばかりの段階であり、現時点で十分な捜査がなされているとはいえない中で有罪が確定したかのような論調は刑事弁護に携わる弁護士としては控えるべきだと言わざるを得ません。

 刑事手続においては、刑事裁判において判決が確定するまでは無罪推定の原則がはたらきます。これは、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証がなければ被告人を無罪にしなければならないといういわゆる「疑わしきは被告人の利益に」との観点のみならず、有罪判決の確定までは犯罪者として取り扱うことは許されないという意味においても守られるべき原則です。

 本件においても、本人は現段階において被擬事実を認めているとの報道がなされていますが、今後実際に起訴されるのか、されるとしていかなる罪名なのか、最終的にどのような判決が確定するのかが未知数な今の段階で、彼が犯罪者であることが確定したかのような報道がなされ、またバッシングを受けなければならない謂われはどこにもないのです。

 また、「殺人で裁くべきだ」などという論調について、ワイドショーなどでコメントを求められた弁護士が殺人の要件上は難しいのではないかと回答したことを受けて、「犯罪者を擁護するのか」などというバッシングがなされているとも聞きます。難しい説明は省きますが、本件において殺人罪の適用が可能だと考える法律家はおそらく皆無に近いでしょう。

 一般の方からすれば、もう少し柔軟に条文を解釈して殺人罪に問えるべきではないか、という意見が出るのは理解します。しかし、そのような「柔軟な解釈」(専門用語で類推解釈といいます)が刑法で可能になるとすれば、捜査機関において「柔軟な解釈」が無限に行われ、刑罰に問いうる範囲が無限に拡大するおそれがあるのです。刑法が人の生命や自由・財産を一方的に奪う機能を持つからこそ、その適用は厳格にするべき、ということです。

 厳罰を、という声に対しては、個人的には危険運転致死傷罪の一部である妨害運転致死(自動車運転死傷行為処罰法第2条4号)の適用の可能性は考えられるのではないかというところですが、捜査の進展状況がわからない中では検察の捜査を見守る他ありません。

 以上、長々と書きましたが、一般の感情として「悪いことをしたのであれば相応の罰を受けるべき」という意見があることは当然です。しかし、先に紹介した「無罪推定の原則」も、「類推解釈」の禁止も、これを徹底することは、国民全体の権利を守ることに繋がるのです。刑事事件に携わる弁護士は、常に一般的な処罰感情とのジレンマを感じながらも、ここは譲れないラインであることを胸に弁護活動に携わっていることをご理解頂ければ幸いです。

 ところで最近、某首相が某番組内において、森友学園の理事長は「詐欺を働く人物」などと発言したらしいですね。確かこの件はまだ裁判前なのでは…。このように、国のトップに立つ権力者からして無罪推定の原則をすっぱり忘れてしまうからこそ、法がこれを規律することが重要なのが良く分かります。

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