弁護士の雑記帳 – 東京中央法律事務所

東京中央法律事務所の公式ブログです

*

交通事故を他人事にしない

 

この記事は約 3 分で読めます。

一昨日、大津市での交通事故のニュースが飛び込んできました。
わずか2歳のお子様を亡くされたご遺族の悲しみは察するに余りあります。
幼くして亡くなられたお子様のご冥福と、怪我をされた方々の1日も早い快復をお祈りします。

この事故の状況を聞いたときに、ヒヤリとした記憶がよみがえりました。
私自身、似たような状況に直面した経験があったのです。

車を運転して交差点を直進しようとしている時に、突然対向車線の右折車が曲がってきたのです。瞬間的に急ブレーキを踏みながら、衝突を避けるためにハンドルを左に切ったのですが、その先には、今回の事故とまったく同じように、信号待ちをしている歩行者がいました。
幸いブレーキも間に合い、歩行者への接触も、車同士の衝突もなく停車できたのですが、事故が発生しなかったのは全く幸運だったとしか言いようがありません。

なぜそんなことが起こったのかといえば、私の前にも直進車が続いていたため、対向車線の右折車は、ずっと待たされてイライラしていたのでしょう。わずかに車間が空いたとみて、右折を強行したようなのです。
右折専用信号もなかったので、このままだといつまでも曲がれない、という焦りが昂じていたのかも知れません。
そんな運転者の心理も理解できます。自分の行く手を阻まれているのは、いくら交通ルールとはいえ、好意的な状況であろうはずもありません。
もちろん、理解できるということと、容認できるということは違いますが、そんなちょっとした心理的なささくれが大きな事故につながることもあるのではないでしょうか。

この経験以来、たとえ青信号の交差点を直進する時でも、対向車線に右折待ちの車がいると、「まさか曲がって来ないよな」という警戒心が頭の片隅をよぎるようになりました。
自分がどんなに注意していても発生する事故はあるとは思いますが、万が一の可能性を考えているだけでも、咄嗟の対応が違うのではないかと思います。

信号待ちをしている歩行者にとって、目の前で車同士の事故が起こって、それに巻き込まれるリスクは、非常に低いとはいえ、皆無ではありません。
今回の事故でも、事故に巻き込まれた保育園児や保育士に法的責任という意味での過失は全くありませんが、こんな不幸な事故に遭う可能性もあることを知っておくだけでも意味があると思います。

元NHKアナウンサーの内藤裕子さんは、帰宅途中、歩道上で信号待ちをしている時に、車道上の車とオートバイの事故に巻き込まれて重傷を負ったことがあったそうです。幸い仕事にも復帰され、現在はフリーアナウンサーとして活動されているようです。

またこれは創作の世界ですが、精神科医で作家の加賀乙彦さんの著作に、「生きている心臓」という、脳死認定と心臓移植を取り扱った小説があります。この小説の中で、精神科教授の天木有作が脳死に陥ったのは、やはり歩道を歩いていたところに、車道上の交通事故で飛ばされた人と衝突したことが原因だったように思います(やや記憶が曖昧ですが)。

人はいつ何時(なんどき)不慮の事故に巻き込まれるか分かりません。
しかし、そのリスクを少しでも減らすために、危険に対する想像力を研ぎ澄ませておきたいものです。
今回の不幸な事故も、「被害者がかわいそう」とか、「加害者はけしからん」とか言うだけではしょせん他人事にとどまってしまいますが、私たちの身近でも起こりうる事故として、自分自身の心にとどめておくことが大切であるように思います。

 - 社会

  関連記事

死票のゆくえ

先月末に行われた衆議院議員総選挙では、議席を伸ばすかと思われた野党第1党の立憲民 …

取り戻すべきもの

新型コロナウイルスの世界的な蔓延がなければ、今頃は東京パラリンピックが行われてい …

人心の一新

明後日には内閣の改造が行われるそうです。 この数か月で一気に落ち込んだ内閣支持率 …

野党はだらしない?

世間は参議院議員通常選挙の真っ最中です。 国政選挙としては2017年10月の衆議 …

初めての贈り物

名前は子供への最初の贈り物。 そんな言葉を耳にしたことがあります。 でもその一方 …

まだ大丈夫?

西日本を中心とした豪雨被害に遭われた皆様、今も避難生活を余儀なくされている皆様に …

首相が語る活性化の鍵

安倍首相は、昨日、内外情勢調査会で講演をされたそうなのですが、その中で、 「地方 …

東電刑事裁判に思う

昨日、福島第一原子力発電所の事故をめぐり、東京電力の旧経営陣が業務上過失致死傷の …

噴出するセクハラ問題

財務事務次官によるセクハラ問題は、本人の辞任で事態が収束するどころか、今まで表に …

刑事手続原則と一般国民感情

 ここ最近ネットやワイドショーを賑わせている話題の一つに、東名高速路上でワゴン車 …