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判決で止められない公害

 

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本日、東京高等裁判所は、横田基地を離着陸する軍用機の騒音などによる損害賠償と夜間の騒音差止めを求めた第2次新横田基地公害訴訟について、過去分の損害賠償請求を認容し、差止めと将来にわたる損害賠償の請求を棄却する判決を言い渡しました。

東京中央法律事務所からは、加納と仲村渠が弁護団の一員として取り組んできた大規模公害事件です。

横田基地の騒音公害をめぐる裁判は、1976(昭和51)年の第1次訴訟以来、今日にいたるまで43年にわたって継続されてきましたが、今回の判決でも、騒音公害の元凶である軍用機の飛行制限(差止め)はもとより、将来にわたる損害賠償請求も認められませんでした。被害は継続していても、公害の発生源には手が付けられず、その結果としての補償(損害賠償)も、被害を受けてから、それも裁判によらなければ支払われないという、理不尽なことになってしまっているのです。

これを、2005(平成17)年11月の東京高裁判決は、

法治国家のありようから見て立法府は怠慢のそしりを免れない

と評したほどですが、残念ながら、それから13年半たった今もその状況は改善されていないのです。

公共事業で道路や橋が作られるとき、個人の権利を侵害するばあいは「補償」が行われます。
しかし、騒音公害では、個人の権利が違法に侵害されているとして賠償判決がくり返されているにもかかわらず、当事者である国は補償制度さえ整備しようとしません。せいぜい、住宅防音工事に対する助成をわずかにする程度で、実際に助成を受けるための条件は限られていますし、被害の抜本的な軽減にはなっていないのが実情です。

防衛問題にことのほか積極的な政権であればこそ、軍事施設の周辺住民に対する「補償」に熱心であってしかるべきでしょう。
しかし実際の態度は真反対です。
裁判に照らしてどの地域が損害賠償の対象になるのかを、国が積極的に教えてくれることはありません。
住民が裁判に訴えて賠償を求めると、国はこれまでの裁判で否定されてきた理屈も持ち出して徹底抗戦します。
そのため裁判は数年がかりになり、裁判中に亡くなってしまう原告も少なくありません。
第2次新横田基地公害訴訟でも、この1年の間に、40数年間にわたって原告住民を取りまとめてきた原告団長と、ここ10数年の活動のエンジンとして活躍した原告団事務局長を病で失っています。

防衛が国政の上での最優先事項で、国民の生活は自己責任と考えているならともかく、そんな考えは近代国家の名に悖(もと)ると言わざるを得ません。
先ごろ、年金制度の実質的破綻を前提に、老後資金は2000万円必要だから自助努力せよという金融庁の報告書が取りまとめられたばかりです。

生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

(日本国憲法13条後段)

この規定を守っていないのは誰なのか。

 - 裁判

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