物を言うのは人かカネか
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大阪の千里丘陵で日本初の万国博覧会が開かれていた1970(昭和45)年6月24日、当時はまだ霞が関にあった最高裁判所で、ある企業の取締役の責任が問われた株主代表訴訟の判決が言い渡されました。企業の名前は八幡製鐵株式會社。現在の日本製鉄株式会社です。
取締役のどのような行為が問題視されたかというと、当時の代表取締役が会社として自由民主党に政治献金をしていたことです。政治献金をすることは、定款に定められた会社の目的を逸脱するもので、会社に損害を与えたということです。
結論的に言うと、取締役の損害賠償責任は否定されました。政治献金を通じて政党政治の健全な発展に協力することは、会社にとっても有益で、間接的には定款に定められた会社の目的にも資する、というわけです。
この最高裁判決は、事実上政党に対する企業献金のお墨付きを与える結果となりました。
しかし、この判決から4年後、雑誌「文藝春秋」に掲載された立花隆の「田中角栄研究―その金脈と人脈」をきっかけに田中角栄内閣総辞職に至る、いわゆる「田中金脈問題」が続きます。企業献金は汚職の温床でもあったのです。
「政治とカネ」の問題は、その後もリクルート事件、東京佐川急便事件、日歯連闇献金事件などが続きますが、政治資金規正法をかいくぐろうとする動きは跡を絶ちません。
目下問題となっている、政治資金パーティーをめぐる闇献金問題もそのひとつです。
政治資金規正法によって政治家個人への献金が禁止されているところ、政治家個人が売りさばいた派閥のパーティー券の売り上げのうち、ノルマを超えた額について派閥から政治家個人へキックバックするというスキームで、事実上政治家個人への献金を実現させるというものでした。
今、「スキーム」なんて書きましたが、悪い言い方をすれば「手口」です。
なぜ政治資金規正法によって、政治とカネのルールを強化しているのかといえば、金によって政治がゆがめられないようにするためです。「ゆがめる」は「歪める」と書きますが、文字通り「不正」を正すのが目的です。
そもそも企業活動と政治活動とは全く別の原理で動いています。否、動くべきものです。
企業は本質的に利益を最大化し拡大する存在です。もちろん、法令遵守や社会的・倫理的ルールを守るというコンプライアンスは求められますが、根本的には利益、要するに金です。営利企業が躍動するのは、金が物を言う世界です。
他方、政治は国民・市民の暮らしを守ること、そこには生命、自由、財産はもちろん、幸福を守ることも含まれます。上位の利益を最大化する以上に、底辺を底上げして不幸を最小限にしていくことが求められます。
「金権政治」という言葉がありますが、金権と人権のバランスは崩れやすいように思えます。
とかく、民間の感覚を政治に、とか、経営センスで政治を行う、とか、この数十年そういうことが声高に言われてきました。政治も金の匂いのする方に傾きやすくなってはいないでしょうか。
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