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最高裁を舞台にした違憲行為

 

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先日NHK EテレのETV特集で「誰のための司法か~團藤重光 最高裁・事件ノート~」という番組が放送されたのをご覧になったでしょうか。

大阪国際空港訴訟とは、大阪空港の周辺住民が、1969(昭和44)年12月に航空機騒音公害の救済を求めて起こした裁判で、一審の大阪地裁、二審の大阪高裁とも原告住民側の勝訴判決が出され、夜間~早朝の航空機の発着が停止されていました。

国はこれを不服として最高裁判所に上告し、事件は最高裁第一小法廷が担当することになったのですが、当時第一小法廷に所属していた団藤重光判事が遺したノートが、大阪国際空港訴訟を巡る最高裁の裏側を明らかにしたのです。

最高裁判所は、第一小法廷、第二小法廷、第三小法廷の3つの裁判体に分かれていて、それぞれが独立して審理を行い、判決を言い渡すことになっています。憲法判断をする場合や判例変更をする場合などは、15名の裁判官全員で構成される大法廷に事件が回付され、大法廷が審理、判決を行います。

上記のとおり、大阪国際空港事件は第一小法廷の事件でしたが、すでに審理を終えて判決を残すのみという段階で、和解が試みられました。
もっとも、すでに判決前ですから、第一小法廷としての心証は固まっています。
その結論は上告棄却、つまり大阪高裁判決を維持する原告住民勝訴というものでした。

なぜ第一小法廷は和解を試みたのでしょうか。

判決というのは、当事者が求める内容を踏み越えて解決基準を示すことはできません。そこで、判決ならこの結論だけれど、和解という方法によって柔軟で幅広い決着の仕方を模索するということは、双方当事者によってもメリットがあります。
公害のような事件では、原告被告以外にも利害のある人はたくさんいますから、和解による解決を模索した最高裁第一小法廷の考えは理解できるものです。

しかし、国は和解には応じませんでした。
裁判所から国側全面敗訴という心証を開示されていたのでしょう。
国は和解に応じない代わりに、第一小法廷に係っているこの事件を大法廷に回付してもらいたいという上申書を提出したのです。
事実上、第一小法廷に対する忌避です。

ここに登場するのが2代前の最高裁長官でした。
すでに定年退官して久しい元長官が第一小法廷の裁判長に電話して、大法廷に回付してはどうかという「アドバイス」をしたというのです。
しかも時の最高裁長官もそのようにアドバイスしたと。
裁判官出身ながら法務省の要職を歴任した元最高裁長官と、検察官出身の現役最高裁長官が、です。

実際に、この後、すでに審理を終結していた事件が大法廷に回付されています。
その上、大法廷回付から判決まで約3年の間に、弁論を行って審理を終結したにもかかわらず、一部の裁判官が退官したことを理由に、つまり新任の裁判官を審理に参加させるために、もう一度弁論を再開したというのです。
最高裁長官の意見を踏まえて内閣が任命することになっていますが、あにはからんや、新任の裁判官がいずれも最初の第一小法廷の心証とは反対の、つまり飛行差止めを認めないという意見の持ち主でした。

結果として、大阪高裁の判決は見直され、飛行差止め請求は却下、騒音被害に対する賠償は過去分のみ認める(騒音被害が続いても、新たな裁判を起こさないと補償されない)という判決となったのです。

人権救済の砦である最高裁をはじめとする裁判所が、外部の介入によって歪められることは断じて見過ごすことはできません。

日本国憲法76条3項は、次のように定めます。

すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

団藤ノートは、最高裁判所を舞台に憲法違反が行われていたことをあぶり出したのです。

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