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国が請求を認諾するとは

 

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森友学園事件をめぐる書類の改ざんを強いられた近畿財務局の職員が自死に追い込まれた件で、遺族が国を相手に損害賠償請求の訴えを起こした裁判で、昨日、被告である国は、「請求を認諾する」という方法で裁判を終結させたことが話題になっています。

遺族がこの訴訟を提起したのは、自死に追い込まれた経緯を知りたい、真実を明らかにしたいということでした。損害賠償金を支払いによる補償を求めるのは、主たる目的ではなかったのです。
それが、賠償請求が認諾されることで、裁判手続を通じて真実を明らかにしたいという本来の目的が閉ざされてしまったのです。

民事裁判では、被告が原告からの請求を認諾すると、認諾調書が作成されますが、この認諾調書には判決と同様の効力がありますので、それ以上審理を継続する訴訟手続上の理由がなくなるため、手続は終了します。

この、いわば「負け逃げ」を認める制度があるのはなぜなのでしょうか。

これには「私的自治の原則」という近代私法の大原則が背景にあります。私人間の権利義務は個人の自主的な判断によって決せられ、これには国家や法律が介入できないというものです。私的自治の原則があればこそ、人々は自由に契約関係を結び、経済活動を行うことができるのです。もちろん、社会的に許されない約束、たとえば奴隷契約などは、公序良俗に反するものとして効力が否定されますが、原則は「私的自治」なのです。

この私的自治の原則は民事訴訟手続でも通用します。
ただし、民事訴訟では「処分権主義」という言い方になります。

私的自治の原則によって自らの権利義務をどのように行使したり、あるいは放棄したりするのも、個人の処分権の問題と考え、たとえば原告が一度提起した訴えを取り下げたりするのも、被告が請求の一部を認めて和解に応じたりするのも、当事者の処分権があればこそです。
たとえ裁判官が、「せっかく原告全面勝訴の心証を持っているのに、取り下げちゃうなんてもったいない」とか、「こんな無茶な訴えに被告が和解しちゃうなんて、とても信じられない」と思ったとしても、当事者がそれでよいというのであれば、認められるわけです。

さて、冒頭の事件です。
請求を認諾したのは被告である国ですが、民事訴訟手続の一形態である国家賠償請求訴訟において、国が、処分権主義に基づいて、原告の請求を認諾することで訴訟手続を終了させたわけです。
たしかに処分権主義は私的自治の原則に基づくものではありますが、これを公的な組織が「私的」な都合で行使することは、権利の濫用ではないのかと思えるのです。
権利濫用禁止は、上記の公序良俗違反禁止とともに、私的自治の原則の限界を画するものです。
原告が、国の請求認諾は権利の濫用に当たり無効なので、訴訟は終結していないから続行期日の指定を求めるとか、請求認諾無効確認の訴えを提起するとか、そういう展開もあるかも知れません。

 

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