反社の定義
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昨日のニュースですが、政府が「反社会的勢力」の定義について「その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであり、限定的・統一的な定義は困難だ」とする答弁書を閣議決定しました。
私たちが取引契約などの作成に関与する際に、「暴力団排除条項」とか「反社条項」と言われる条項を入れるようアドバイスすることは少なくありません。「コンプライアンス」という言葉が、単に「法令遵守」という日本語訳を超えて、社会規範に則ることや企業倫理を守ることも含むものとして理解されるようになり、暴力団をはじめとする反社会的勢力を社会から排除していくことも、社会的責任として認識されるようになっています。
2007(平成19)年6月19日、内閣総理大臣が主宰する犯罪対策閣僚会議の幹事会申合せとして、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が示されています。時の総理大臣は、奇しくも現職の安倍晋三首相その人でした。
この「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を見ると、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」を「反社会的勢力」としています。政府によって、反社会的勢力の定義が示されていたわけです。
ところが、昨日の閣議決定は、どうもこれまでの反社会的勢力の定義は流動的だ、としたわけです。つまり、2007(平成19)年6月当時は上記の定義でよかったとしても、それはその時点での定義であって、絶対的なものではない、ということなのでしょう。
なるほど、何をもって反社会的とするかについては、社会通念の変化によっても異なるというのは一般論として理解することはできます。
しかし、この閣議決定された答弁書は、立憲民主党の初鹿明博衆議院議員が提出した質問主意書に対する答弁なのですが、その質問内容は、簡単に言うと、「『反社会的勢力』の概念が変化しているなら、政府として改めて定義付けをする必要があるのではないか、そうでないと最前線で対応に当たる民間企業も困ってしまいますよ」というものです。
これに対する応答として「定義は困難」というのですから、もう「『反社会的勢力』の定義をするのは辞めた。勝手にしろ。」と言っていると受け止めざるを得ません。
これが、「責任」という言葉を乱発してきた政権の態度ですから、私たち弁護士としても、この無責任な政府の対応には憤りを覚えています。
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