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憲法第95条(地方特別法の住民投票)

 

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第95条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。

 憲法上、法律を制定する権限、いわゆる立法権の帰属については国会がその「唯一の立法機関」であるとされ(憲法41条)、法律の制定は国会の議決のみで成立するのが原則とされています(国会単独立法の原則)。
 憲法95条はその例外であり、国会の議決に加え当該法律の適用対象となる地方公共団体における過半数の同意を法律成立要件とする規定です。

 通常法律は広く一般に適用されるものであって、特定の対象・特定の事例のみに適用されることは予定されていません。そのような法律の成立を許容してしまうと、特定の対象に対する狙い撃ち的な法規制が可能となってしまうからです。このような狙い撃ち的な法規制は、地方公共団体に与えられている地方自治権を侵害するおそれもあります。

 しかし、広島の戦後復興を促進するために国有財産の無償譲渡制を定めた広島平和記念都市建設法などの適用事例のように、その地方特有の事情による特定の対象に対する法律が求められる場合もあります。そのような要請とそれによる弊害とのバランスをとり、特定の地方公共団体に対して適用される法律の成立につき、当該地方公共団体の自治権を尊重して、住民の過半数の同意という要件を加重したのが憲法95条です。

 実はこの憲法95条、適用例は1949年(昭和24年)から1952年(昭和27年)に集中しており、その後は適用された例がなく、死文化しているではないかという批判の声もあります。

 しかし、数年前に憲法学者の木村草太教授が沖縄タイムスの連載コラムにて、辺野古への基地移転問題に関して憲法95条に基づき住民投票が必要だとの持論を展開したことで話題になりました。
 実際に、2019(平成31)年2月には、沖縄県の住民投票条例に則り辺野古への米軍基地移転の是非を問う県民投票が実施され、反対は有効投票中7割を超えました。
 この住民投票の結果について、国は憲法95条に基づく投票ではなく、法的拘束力を有しないという見解を示しています。

 しかし、名護市という特定の地方公共団体に基地移転という負担を押しつける施策であること、そしてそれに反対する住民の明確な民意が示されたことを踏まえれば、辺野古への基地移転を強行することは憲法95条の趣旨である地方公共団体の団体自治権の尊重に反するのではないかとも考えられるでしょう。

弁護士 仲村渠 桃

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