天の声にひざまずく
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新元号ネタの連続3稿目です。
新元号に使われることになった「令」の字ですが、出典とされている万葉集での「令月」という用例は「めでたい月」の意味で、令夫人や令嬢、令息などの「良い」「素晴らしい」「優れている」という意味だと説明されています。
たしかに令月というときの「令」は「良い」という意味合いで、それが転じて、令夫人、令嬢、令息というように尊敬の意を表す接頭語として用いられるようになったのでしょう。
しかし残念ながら、「令」という一文字の語義としては、「良い」という意味合いが最初に出てくることはまずありません。
私の手元の国語辞典(古い広辞苑)を見ると、最初に出てくる語釈は「命ずること」で、その用例の筆頭は「命令」です。
次に出てくるのは「おきて」で、「法令」がその用例ということになります。
3番目は「長官」。「県令」という用例が紹介されていますが、これは明治期に置かれた県の長官で、今で言う県知事です。
4番目にようやく登場するのが「よいこと」、「めでたいこと」。
最後の5番目が「他人の家族などを尊敬していう語」です。
「令」と聞いて、まず命令や法令を思い浮かべるのは、私たち弁護士だけの職業病ではないと思います。
新元号を聞いて、何となく上から押し付けられるイメージがよぎるのも、「令」の文字からの連想ではないでしょうか。
これまでこの文字が一度も元号に使われなかった理由が分かるような気もします。
「令」の語源を調べてみると、ちょっと面白いことが分かりました。
屋根に横棒の部分は、象形文字で天の声を表しているのだそうです。なるほど、天井からスピーカーかラッパがぶら下がっているようにも見えます。
下の部分(即の字の右側のような、片仮名のマのような部分)は、これも象形文字で、人がひざまずいている様子を表しているのだそうです。
両方合わせると、ひざまづいて天の声に耳を傾ける様子になるわけです。
天の声には逆らうことはできない。
そこから転じて、命令とか掟、お触れとなるのは自然ですね。
その命令やお触れを発する権力者に「令」の字を当てるのも分かる気がします。
ではなぜ、これが「よいこと」「めでたいこと」になったのでしょうか。
このあたりはよく調べていないのですが、「れい」という音から「玲」とか「麗」の意味まで帯びるようになったのか、命令や法令、あるいは長官のような権力者に従うことが「よきこと」とされたのか、そのあたりはちょっと分かりません。
しかし、ここでちょっと面白いことを発見しました(思いつきました?)。
天の声は、つまり神の声。これを英語に直訳すると「God spell」、これが転じて「Gospel(ゴスペル)」、日本語では「福音」です。キリスト教の概念ですね。「Good」は「God」から転じたとも言われていますから、天の声はまさに「よき知らせ」そのものなのです。
「よき知らせ」をひざまずいて聞くのですから、これはもう「よいこと」「めでたいこと」でいいんじゃないでしょうか。
「令」からぐるっと回って、やっと「よいこと」まで辿り着きました。
まさか、万葉集からキリスト教を経て元号に至るとは思ってもみませんでした。
まあ、間違っても政府見解にはならないと思いますが、こんな解釈はいかがでしょうか。
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