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印象操作

 

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何とかの一つ覚えじゃないですが、同じフレーズを多用する人っていますね。少し前にはやった言い方を借りれば、「言葉の『マイブーム』」なんでしょう。

今年上半期によく聞こえてきたのが「印象操作」というフレーズでした。みなさんよくご存知のあの方が頻繁に使っているので、すっかり耳にこびりついているのではないかと思いますが、以前は「レッテル貼り」って言ってましたよね。多分同じ意味で使っているのでしょうけれど、ブームというのは変転するものです。次はどんなブームが来るのでしょうか。色眼鏡、烙印、僻見、バイアス等々。みなさんの予想はどうですか?

「印象操作」という言葉は、もともと他者に与える自分の印象をコントロールすることの意味で使われることが多いようです。人を貶めるような発言に対して、「印象操作だ」というのは、珍しい使い方のようです。どちらかというと「悪口言うな」とか「侮辱だ」というくらいの意味なのでしょう。指摘されている事実が誤っているというのであれば、むしろそれを指摘すべきところです。

そのような広い意味で「印象操作」という言葉を使うことが許されるのであれば、私たち弁護士はよく印象操作の場面に出会います。

例えば、法律相談で、相談者の方がトラブルの相手方を悪しざまにののしることがあります。一種の印象操作ですね。トラブルの相手ですから、それは憎らしく思うのは自然なことです。でも、「だいたいアイツは悪いやつで信用ならないんだ。はじめっから俺をだますつもりだったに違いない。」と訴えられても、弁護士としてはこの言葉を額面通りに受け取るわけにはいきません。今回のトラブルは何が原因か、それについての証拠の有無、主張の合理性などを踏まえてアドバイスをします。

刑事被告人の弁護をする際に、検察官からの論告で、犯行の悪質性ばかりでなく、被告人の素行とか交友関係とか前科とか、「とにかくコイツ悪いやつなんです」的な指摘がされることもあります。そういう性行からすると、甘い処分では更生しない、厳しい処罰が必要だ、というのなら分かるのですが、求刑内容はごく一般的な「相場」に沿ったものだったりすると、この印象操作は何だったのか?と思いたくもなります。検察官は、論告で指摘するほど、この被告人のことを悪く思っていませんよ、と。

まあ、そういった広い意味での印象操作なんて、世間一般よくあることでしょうから、そんなマイブームの用語で一括りにせずに、問題の本質は何なのかを冷静に見極めることが大事です。そこを怠ると、

「バーカ」
「バカって言った方がもっとバカだ」
「じゃあお前の方がバカってことだ」(以下、繰り返し)

という子供のケンカみたいなもので、「印象操作だ」と言ったところで満足して思考停止に陥ってしまうわけです。だめだこりゃ。

それより、やみくもに「憲法は時代遅れだ」とか、犯罪全体の件数も、凶悪犯罪もどんどん減っているのに「治安はますます悪化している」とか、「共謀罪がないとオリンピックが開けない」とか、そういう方がよっぽど深刻な「印象操作」なのに。

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