弁護士 加藤 文也

 カントの「永遠平和のために」の小論は、18世紀末、ヨーロッパで国家間の戦争が多く起こる中で、平和を主張する理論が空論に過ぎないとの当時の世論に反駁し、絶対平和の現実的実現可能性を論証しようとして書かかれたものです。カントは、その中で永遠平和を実現するための必要条件として、第1に、各国家における市民的体制は、社会の成員が人間として自由で、平等が保障され、民主主義が実現できる共和的体制であること、第2に、国際法を制定するにあたっての必要条件を明らかにした上で、各国が国際法を遵守することの重要性を指摘しています。

 2014年7月、国際人権(自由権)規約委員会は、日本政府が何ら国際人権違反はないとの見解を表明していたにも関わらず、都立学校の教職員に対する卒業式等における国旗(「日の丸」)・国歌(「君が代」)の実施を強行し、従わない教職員を懲戒処分に付すことは、第18条(思想、良心及び宗教の自由)に反する恐れがあるとの総括所見を初めて示しました。

 さらに、2022年11月、国際人権(自由権)規約委員会は、前回の総括所見から、踏み込んで、東京都の教職員に対する日の丸・君が代強制に関する処分が自由権規約18条に適合しないとし、教職員に対する日の丸・君が代強制を中止するよう勧告する総括所見を示しました。

 上記総括所見が示された後、今年に入って、裁判の当事者とそれを支える運動団体と、文科省はじめ政府機関と総括所見実現に向けた対話集会が何度か持たれていますが、わが国政府機関は、誠実に対応しているとは思われません。

 国際社会から、わが国が国際法を遵守し、平和の実現(憲法9条)を目指す国であると認知されるためにも誠実に対応すべきです。