弁護士 渕上 隆

 生活保護基準引下げを違法として国を断罪する判決が相次いでいます。

 2012年末、自民党は「生活保護費10%カット」を公約に掲げて、政権復帰を果たすと、第2次安倍内閣は翌年から公約通り生活保護基準を引下げました。その違憲性、違法性を問う裁判が全国延べ30の裁判所で提訴されましたが、当初は、原告敗訴の判決が続き、他地裁の原告敗訴判決の誤字まで「コピペ」して引き写し、政府の行為を追認する、司法の役割を放棄したような判決も見られました。しかし、2021年2月に大阪地裁で初めて原告が勝訴し、さらに、同年5月の熊本地裁の原告勝訴判決で完全に潮目が変わり、以後、原告勝訴判決が続きました。本年5月に大阪地裁判決を覆す大阪高裁判決が出ましたが、その後も原告勝訴の流れは変わらず、2つの地裁で原告勝訴となりました。現時点で地裁判決の出た21件のうち原告勝訴は11件となっています。国の政策の是非を問う裁判で、これだけの裁判所が厚生労働大臣の裁量権の逸脱、濫用を認めたのですから、異例の事態です。

 生活保護基準は就学援助、住民税の非課税限度額、保育料の減免、国民年金保険料や介護保険料の減免、医療保険の自己負担限度額の軽減、最低賃金などとも連動しており、生活保護基準の引下げは生活保護利用者だけの問題ではありません。

 私と長谷川弁護士が担当する東京の訴訟は年内に結審する見込みですが、大阪の訴訟についてはいよいよ舞台は最高裁に移ります。裁判所には、行政の誤りを正し、国民の人権を守るという司法本来の役割を果たすことが求められます。