弁護士 加納 力

 小学6年生の夏、家の近くで遊んでいる時に、捨ててあった廃材から飛び出していた古釘を踏み抜いてしまったことがあった。消毒して出血も止まったから安心していたが、夜になって足が倍ほどに腫れ、ズキズキする痛みも強くなった。両親や祖母が話す、破傷風とか三種混合ワクチンとか耳慣れない言葉を聞いた後、夜間診療をしている診療所に運ばれることになった。立ち上がるのも辛い状態だったが、家の前まで入って来られないタクシーまで私をおんぶして運んでくれたのは、その頃にはもう背丈でも追い越してしまった母だった。
 小柄な上、連日の立ち仕事で膝や腰の痛みを訴えていた母だったが、この時は別人のようだった。小6にもなって母親におんぶされている気恥ずかしさや、堪えがたい足の痛みよりも、驚きの方が少し勝っていたように思う。おかげでその夏のうちに川で遊べるほど回復したが、この日の記憶は鮮烈だ。昨冬母を送る際にも心に浮かんだ光景だった。