弁護士 髙見 智恵子

 2018年8月に東京医科大学で女性合格者の割合を3割以下に抑えるために女性を一律に減点していたと報じられた時の衝撃を覚えていますか。私もその一員である「医学部入試における女性差別弁護団」では、東京医科大学、順天堂大学、聖マリアンナ医科大学の三校に対して、それぞれ損害賠償訴訟を提起してきました。順天堂に対する判決に続き、2022年9月9日、東京地裁において、元受験生の女性28人が東京医科大学に対して慰謝料等の損害賠償を求めていた訴訟の判決が言い渡されました。
 判決は、東京医科大学のような「私立」大学でも、「法律に定める学校」(教育基本法6条1項)としての公の性質を有するから、入学試験によって入学者を選別するにあたっては、憲法や教育基本法等の公法における規定の趣旨を尊重する法的義務を負うとしました。また、この法的義務を前提として、被告が行った属性調整は、性別という自らの努力や意思によって変えることのできない属性を理由として女性受験者を一律不利益に扱うもので、性別による不合理な差別的取扱を禁止した教育基本法4条1項及び憲法14条1項の趣旨に反し、公正かつ妥当な方法(大学設置基準2条の2)による入学者選抜とはいえないと判断しました。
 一方で、判決は、属性調整自体が違法であるとは明言せず、「属性調整を公表せずに受験させたこと」をもって(受験校選択の自由を侵害する)不法行為にあたるとし、被告が行った属性調整の本質である「女性差別」に正面から向き合いませんでした。そして、原告らが求めていた受験慰謝料(性差別入試を受けさせられたことの慰謝料)は受験1年度あたり20 万円とし、本来であれば合格していたか、その可能性があった原告らには100万~150万円の慰謝料を上乗せしての支払いを命じました。
 判決が属性調整自体、つまり女性差別を正面から捉えていれば、このような低廉な賠償額にはならなかったはずです。女性差別自体が決して許されない重大な不法行為であることを社会に示すことを求めるべく、原告らの多くが控訴するという決断をしました。