本年4月から通称うば捨て山医療制度が、国民に十分な内容の説明がないまま、一方的に強行実施された。
 ある東北大学院経済研究科の教授は、単なるうば捨てでなく世界に例のない戦前労働者をひどい条件で監禁した「たこ部屋」医療制度であるという。理由は、75歳以上の高齢者をほかの医療保険から切り離し、死ぬまで年金から保険料を取り続けるからであるという。この制度の本質をいい得て妙である。なぜか、政府はこの制度は、現在は勿論、団塊世代の大量に老齢化が予想される終末の医療抑制のためにも良い制度であると強辯する。しかし、①この制度の実施で7~8割の人は保険料が下がるといっていた舛添厚労相の発言も全く根拠のない数字だったこと、又75歳以上の人がふえればふえる程、保険料は次第に高くなることも明らかになってきている。②次にこの制度の冷酷さは、夫婦でも一方が75歳になると、年下の妻は分離されあらたに国保の保険料負担を、息子の健康保険で扶養者とされた父・母も、75歳を契機に家族と分離され後期医療制度の保険料の天引きを強いられる。より冷酷なのは、若し保険料の支払いを1年以上払えないと、保険証を取り上げられ自己負担を強制される。これは高齢者に死を選べというのに等しい。

 舛添厚労相は、国会でこれらの制度導入の理由として①治療の長期化、複数疾患への罹患、②多くに、認知症の問題、③いずれ避けられない死を迎えることを、後期高齢者の3つの特性にあげたが、これは戦後の日本の繁栄を担いかつ長期に保険料を負担して保険制度自体を支えつつ、老齢化した人々に対する人道的処置とは到底思われない暴言でありかつその本音である。その上この制度は、高齢者に対し、今後健診(実施対象から除外)、外来(検査・処置費用の定額化による制度)、入院(追い出し)、終末期医療(延命治療の減少化)、葬祭費(引き下げ)、差別医療の拡大等々の医療内容の差別をも促進しかねない。このような実態をみてくると、金持ちだけが高度の医療を受け、貧乏人は支払った保険料に見合う貧弱な治療しか受けられない米国を彷彿するが、今回の制度は、背後に米国の強い圧力のもとで日本の政官財が一挙三得をねらって生まれたことを銘記すべきである。(08・5・16週刊金曜日後期高齢者医療制度・老人を殺すな10~17頁参照)