今から14年前、アメリカの大学でフランク・ニューマン先生のゼミに出せていただいたことがあった。先生のテキストを通じて、アメリカが第二次世界大戦後、既にその時点までに30数回にわたって軍隊を他国に派遣していること、それに対して、派遣を止めるための訴訟まで起こったりしたことがあったことを知った。私は、そのゼミで辿々しい英語で憲法9条について話す機会を持たせていただいた。力(軍事)を過信すると思われる国にあって、現実政治の厳しさを踏まえた上、旧ユーゴなどに現地調査まで行った上、国際紛争を平和裏に解決するため法律家として真摯に努力される姿勢に多くのことを学ばせていただいた。先生は多くの国際人権法の研究者を育て、私がアメリカから戻ってから数年後になくなられたとのことであった。

 9・11後、アメリカは、アフガニスタン、イラクに軍隊を派遣し、日本もアメリカの要請を受け入れる形で、自衛隊をイラクに派遣するという事態となった。

 そんな中で、9条世界会議が、日本の市民団体、法律家団体を中心に企画され、今年5月4日から5日、千葉の幕張メッセで開かれた。会議に参加して驚いたことは、何よりも参加者が多かったことであった。世界中から多くのNGOや法律家、市民が集い、活気ある意見交換がなされた。

 「世界は9条をえらび始めた」というテーマが3日間の議論を通じて明らかになったと思われる。この会議を成功に導いたのは、九条の会等を通じた草の根の幅広い市民の運動であった。私は、この間、憲法9条を護るため、全国至るところで地道な活動をしている多くの方々を知った。まさに、それこそが「地の塩」としての活動と思われる。

 現実の政治は、なお、力(武力)の論理が勝っているようにみえる。しかし、イラク、アフガニスタンの現状は力(武力)では平和を創ることができないことを示している。そのことは、平和構築にこそ、9条が必要であることを示している。

 今年5月に読売新聞の行った世論調査によれば、9条を「変えないほうがよい」が「変えたほうがよい」を上回ったという。この調査結果は画期的なことである。私も、これからも世界が9条を選び取るための活動をささやかであっても続けていきたいと思う。