弁護士 新井 章/(司会)弁護士 加藤文也/事務局 近藤 脩

 

加藤 さる5月14日に日本国憲法の改正手続きに関する法律(以下「国民投票法」と表示)が国会で可決成立し、3年後には憲法改正が発議される現実的可能性が出てきました。本日は、これまで多くの憲法訴訟にかかわってこられた新井先生と現行憲法に熱い思いを持っておられる事務局長の近藤さんとでこの問題について検討してみたいと思います。
 最初に新井先生から今回成立しました国民投票法の持つ問題点について簡単に述べていただけますでしょうか。

新井 国民投票法というのは、日本国憲法が60年前に制定された当時から予想されていた法律なので、今回これが成立を見たということで、大変意外な出来事が起こってしまったと嘆いたりする必要はないと思います。しかし、同時に、今の日本国憲法の中で「国民投票」ということが謳われているのは、憲法改正の時の国民投票制度だけですから、いよいよ憲法改正という政治的な課題が迫ってきたなという、情勢の逼迫さを感じさせることも間違いないので、今回の国民投票法の成立が広く国民の関心を集めているのは当然のことだと思うのです。
 ところで、政府提案の国民投票法案には重大な問題点が幾つか指摘されておりました。
 例えば、この大事な憲法改正のための国民投票に何歳以上の人が参加できるか、18歳か20歳かという投票権者の問題をはじめとして、憲法改正が将来、具体的に国民投票に付されたときに有効投票の過半数で改正が成立したとするのか、無効票を含めて投票総数の過半数で成立したとするのかという、投票成立の方式の問題や、最低投票率を設定すべきだという問題もありました。また、広くマスコミ等でも指摘されておりましたが、この憲法改正問題の議論にすべての国民が自由に参加していいという意見がある一方で、いや、公務員とか学校の教員にはその地位を利用した仕方での参加の方式は許されないと考える見解もありました。しかし、結局、政府与党側の主張する内容で、多くの問題点を残したまま成立まで運ばれたというのが事実です。

加藤 近藤さんはこの法案の制定手続きにはどんな問題点があったというふうにお考えですか。

近藤 重要な法律を制定する場合には、公聴会をきちんとやって慎重に議論するということになっているのですけれども、参議院の議論のときはほとんどやられないで採択をされた。この法律にいろいろな問題があるということが明らかになってきたので、18項目にわたる付帯決議というものを付けた。しかし付帯決議を付けても、法律そのものとしては有効なものです。当初から欠陥あるこの重要な法律を与党の多数で強行してしまったのでは取り返しがつかないのです。参議院は慎重審議を尽くすというところに存在意義があるにもかかわらず、自らの存在を否定するという成立過程だったように思います。

加藤 最近は重要法案について、いろいろな問題点が国会内外から指摘されていても、十分その問題点を詰めて検討されることがないまま強行採決されるという情況が続いています。このような国会情況で国民投票法が成立し、施行は3年後となりました。国会法の改正で憲法調査会が憲法審査会に衣替えされ、その審査会は憲法改正原案や改正発議や国民投票に関する法律案も提出できることになりました。3年後には憲法改正の発議は可能となった今、私たちにとってこの3年というのはどういう意味付けを持つ機会と受け取ったらいいでしょうか。

新井 テレビその他で、政府与党がこの3年間をどう過ごそうと考えているかという点の報道がされています。一言で言えば、3年後に正式に憲法改正が発議できるように、それまでの3年間で、国民の改正問題についての関心を高める。できることならば政府与党が希望するような改正案の方向で、国民の関心が高まるように働きかけると言われています。憲法審査会を中心にして、今申したような議論を国民の間で活発化させようと意図されているというわけです。
 しかし、私などの考え方、つまり今の平和憲法を急いで改正する必要はない、とりわけ憲法9条を改正して自衛軍が持てるようにするとか、国際貢献のために海外に自衛軍を派遣できるようにするとか、そういう改正を急いで実現する必要はないと考えている立場の者から申しますと、憲法改正是か非かというこの重要なテーマについては、5年でも6年でも、国民の関心が真の意味で高まり、深まるために十分な時間が費やされていいのではないかと思っております。そういう立場から、9条の改正に批判的な多くの人たちと一緒に、政府側の予定している”憲法論議”に対抗して、宣伝とか、討論とか、あるいは意見表明等を重ねていくべきではないかと思っています。

加藤 近藤さんはこの3年というものをどのような意味付けとしてとらえているのでしょうか。

近藤 「国民投票」までは試される期間ということになります。根気よく、各人ができる得意な方法で、現在の憲法の内容と憲法に違反する実状を広く知らせていくこと、その力を結集することが大切だと思います。1991年の「湾岸戦争」のときに、アメリカ中心の同盟軍に対して、日本が90億ドルを支援して自衛隊の掃海部隊を海外に派遣するということが始まりました。それと同じ構図が現在まで引き継がれ強化されています。ものすごい勢いで米日軍一体化が行われ、日本の予算がアメリカ軍基地のために大量に使われています。税金の使われ方を見ることも大切に思います。2005年10月28日発表の自民党の新憲法草案は、アメリカの世界戦略に応えるものです。これは改正案というよりも現在の憲法とは全く異なる憲法を作るというものでした。(昨年の事務所だより夏号に金井弁護士が「自民党『新憲法草案』の基調」を書かれている。)
 憲法は古くなった、押しつけである、新しい人権規定を設ける等「憲法改正」の必要性を声高に言う人達がいます。しかし、現在の憲法は本来なら、平和的生存権の保障により、人権を広範に保障し、権力制限を徹底しているのです。何らの正当性のない自衛隊のイラクへの派遣が2年間延長されました。その自衛隊は、イラクへの自衛隊派遣に反対する市民運動や報道機関の取材に関する情報を広範に収集するなど、明らかな憲法違反行為をしています。「国民投票」で、現憲法が自民党の新憲法草案のような内容に替えられても良いのかと、個別具体的な内容を現憲法と突き合わせて問い続ける重要な期間だと思います。