敗戦時に当時の満州に置き去りにされて故国に帰るすべを失った中国残留孤児(残留邦人)と呼ばれる方々に対する政府の支援策がようやく具体化され、これまで全国15の裁判所で約2200名にのぼる孤児原告たちが起こしていた訴訟も一斉に終結に向かうことになりました。

 残留孤児は、その大半が1980年代以降にようやく日本に帰国することができた人々で、帰国時には老年の域に達している人も多く、日本語の習得に困難し、中国で築き上げた地位や職歴が通用しないために生活に困窮する人が大半です。この事実は同年代の一般国民世帯における生活保護受給率が2%程度なのに対し、孤児世帯のそれは60%をはるかに超えているという数字から明らかです。孤児らがおかれている現状は彼ら自身の努力不足によるというよりも、帰国した後で十分な自立のための支援を行っていなかった行政の責任によるものだというのが孤児の主張でした。

 今回の政府の支援策は、孤児に対して生活保護に代わる特別な給付金制度を設けるというもので、基礎年金分の満額支給や最高8万円の給付金を含み、孤児の「人間としての尊厳」や「老後の生活の安定」を基本方針とした制度が秋の臨時国会で立法化される予定となっています。過去の行政の怠慢に対する謝罪の言葉こそなかったものの、原告団が支援策受け入れを決めた直後には、安倍総理が首相官邸で孤児原告ら約100人と面会し、彼らのこれまでの労苦をねぎらい、新たな支援策の実行を確約しました。

 今回の政策転換は、皮肉にも今年1月30日に出された東京地裁での孤児ら完全敗訴判決の翌日の総理指示から始まりました。その後、厚労大臣の謝罪、有識者懇談会での協議、与党PTの検討等の経過をみると、訴訟の動きとは関係なく政策の転換が図られたようにも見えます。また、裁判所は、現在までのところ昨年12月の画期的な神戸地裁での判決を除き、関連する7件の訴訟が全て原告敗訴に終わるという結果になっていました。しかし、全国の孤児らの9割に上る原告が、夢にまで見て帰国したその祖国を訴えざるを得なかったという事態がなければ、今日の政策転換は絶対になかったことも事実です。神戸地裁判決はもちろんのこと、原告らの請求を退けた敗訴判決の中でも過去の政府の不十分な対応は厳しく指摘されました。全国の原告弁護団も新たな政策作りに主体的に関与しました。これらの全てが政府を動かしたといえます。

 弁護団の一員として、これまでの皆様の支援とご理解に深く感謝します。