太平洋戦争下の治安維持法による弾圧で、苛酷な拷問にさらされた犠牲者達の再審請求事件(いわゆる横浜事件)については、この事務所だよりでも折に触れて報告申し上げてきましたが、本年2月9日横浜地方裁判所は、意外にも大方の予想を裏切って―無罪判決ではなく―「免訴」の判決を言渡しました。

 1986年から始められた元被告人らの再審請求に対しては、幸いにも03年4月の横浜地裁決定と、ひき続く05年3月の東京高裁決定とで重ねて再審手続の開始が認められ、これを受けて昨年秋からは、横浜地裁刑事部(松尾昭一裁判長)において、かつての治安維持法有罪判決を”見直す”ための再審公判が行われてきました。

 ことに東京高裁決定では、元被告人らが作成した上申書等の裁判資料を精査した結果、当時の神奈川県警の特高警察官らによる凄惨な拷問の末に、虚偽の自白がデッチ上げられ、その自白を唯一の証拠として有罪判決が下されたという経緯が真正面から認められることとなり、検察側もまたこの決定には服するとしていたのですから、これを受けた再審公判では、元被告人らに「有罪の証拠なし」→「無罪」という判決がなされるものと誰しもが予想し、期待していたのでした。

 ところが、今回の再審裁判で横浜地裁刑事部は、その当然の期待を裏切って「免訴」の判決を言渡し、関係者はもちろん、ひろく世間からも強い批判と反撥をかったわけですが、驚いたことに、その理由とするところは唯一つ、最高裁が昭和23年5月26日に示した「プラカード事件」判決が、裁判中に「刑ノ廃止」や「大赦」が行われたときは、直ちに審理を打ち切って「免訴」判決で裁判を終了させるべしと判示しており、それに従わねばならぬからだというのです。

 しかし、①この判断は最高裁判決の趣旨を正解していない疑いが濃厚ですし、②また、半世紀以上も前の最高裁判決に盲従して、「独立した裁判所」としての判断を放棄したとのそしりを免れず、③それに何よりも、戦前日本の汚点というべき思想弾圧・人権蹂躙の権力犯罪たる「横浜事件」を、戦後司法の立場から―自己批判を籠めて―”裁く”という大局観が決定的に欠けております。

 そういう見地から弁護団としては、東京高裁に控訴を申し立て、あくまで「無罪」判決をかち取るべく努力を続けておりますので、今後も注意深く見守って頂きたいと存じます。