憲法改正の手続法である「国民投票法」も継続審議となり、憲法「改正」の動きが急です。特に昨年11月には、自民党が最も基本的指導原理である現行憲法9条2項を削除する内容の「新憲法草案」なるものを公表しています。わが事務所は、「憲法理念の実現をめざして」(当事務所20周年記念出版本の表題でもある)きた事務所でありますから、以下憲法「改正論」を俎上にのせて検討していきたいと思います。

 先ず自民党新憲法草案の基調はいかなるものか、今回はこれを紹介したい(なお自民党案が「改正案」でなく「新憲法草案」という表題は、革命等で政治体制が抜本的に変化した場合に創られるもので、今回は単なる「憲法改正案」である)。

 ところで、自民党「新憲法草案」の目的は3つあると思います。

 第1の目的は、前述の通り9条2項を削除して、新たに「9条の2」を新設し、そこで「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため…自衛軍を保持する」との規定をおき、他国の軍隊と一体化して行動できる、即ち「集団的自衛権」行使の自衛隊(軍隊)を持つことを可能にすることにあると考えられます。憲法前文もこれに合わせ、「政府の行為によって再び惨禍が起きることのないようにすることを決意し」「全世界の国民が…平和のうちに生存する権利を有することを確認する」との文言を削除したばかりか、新たに「帰属する国や社会を愛情と責任感と気概を持って自ら守る責務を共有し」「日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に願い、他国と共にその実現のため協力し合う」とし、自衛隊も国民もこれに協力することを明確にしております。

 第2の特徴は、第1の「軍隊」設立に伴って「軍事裁判所」の導入(76条)です。これは軍事に関する事項は多くは「機密」事項に関することとされ、このため軍事に関する刑事・民事・行政事件全てが「秘密裏」に処理される必要が生じることから、新たにこれを扱う「軍事裁判所」を創ることにしたものです。そこでは捜査機関(戦前の憲兵)、起訴機関、裁判官までが変質を余儀なくされ、派兵になれば海外での裁判が不可欠になる等「裁判」自体が変質されることになりましょう。軍事機密法、軍刑法の制定も必定であります。

 第3の目的は、憲法改正手続きの緩和です。現在の規定では、国会各議院の総数の3分の2以上の賛成で国会が発議し、国民投票で過半数の賛成を必要とする内容になっていますが、これを総議員の過半数で国会が議決することが出来ることにしております。

 当面の重点を、9条の改正にして、その後自由に改正をしようとしているものと推測できます。かかる「改正」は法的にも改正の限界を超えるものと言って差しつかえないでしょう。

 次にかかる日本の憲法改正の要求が、どこからなされているか見る必要があります。