80年
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先日、渋谷区立松濤美術館を訪れました。
彫刻家、安藤照の没後80年を記念した回顧展を鑑賞するためでした。
安藤照と言われて、あああの人か、と分かる人は多くないかも知れませんが、初代忠犬ハチ公像の作者と聞けばお分かりかと思います。
ちなみに、現在渋谷駅前に設置されているハチ公像は2代目で、照の息子、安藤士が制作したものです。
初代ハチ公像は太平洋戦争下の金属類回収令によって供出され、終戦詔勅を伝える玉音放送前日の1945年8月14日に溶解されて機関車の部品の材料に充てられたのだそうです。
安藤照もこの年命を落としました。
1945年5月25日、渋谷区代々木にあった自宅兼アトリエで空襲に遭い(いわゆる山の手空襲)、防空壕に逃げ込んだものの、壕内で蒸し焼き状態となり亡くなったといいます。
この山の手空襲の日付と彫刻家の最期を知り、ハタと思い出したことがありました。
詩人、木原孝一の「鎮魂歌」の一節です。
正確に言うと、この詩に一柳慧が曲をつけた合唱曲のメロディーとともに脳裏をよぎったのです。
昭和二十年
五月二十四日の夜が明けると
弟よ おまえは黒焦げの燃えがらだった
薪を積んで 残った骨をのせて 石油をかけて
弟よ わたしはおまえを焼いた
1日違いですが、一連の山の手空襲でのことでしょう。
不慮の事故で障害を負ってしまった弟の短い人生と、太平洋戦争に至る昭和の日本を対比的に描いたこの詩は次のように締めくくられます。
一九五五年
戦争が終わって 十年経った
弟よ おまえのほうからはよく見えるだろう
わたしには いま
何処で 何が起こっているのか よくわからない
戦争が終わって80年たった今、私たちは、どこで何が起こっているのか、本当に分かっているのでしょうか。
きっと分からないことが多いのでしょう。しかし、分かった気になってしまうことの方が恐ろしいようにも思います。分かったと思うことは思考停止にも通じますから。
安藤照が語った「ただ黙々と仕事をして居ります」とは、不安定な時代にあっても手を止めない、あゆみを止めない、考えることをやめないことの大切さを説いているように思えます。
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