昨秋、白神のブナの森を訪れる機会を得ました。世界遺産地域は立ち入れず白神山地周辺の森・湿原・湖などを巡りました。樹齢百年を超えるブナの巨木が佇立する森は、多様な落葉広葉樹が順々に紅葉を迎え、朴が葉を落とし、桂が色づきとともに仄かな甘い香りを漂わせ、倒木や朽ち木に様々な茸が出始めの頃です。訪れたいくつかの森は、人の手の入り方を反映し異なる姿を見せていました。ブナの自然林は、堅い材質から戦時中はプロペラやパルプの用材として母木を残した択伐、戦後も燃料のためや建材にする杉への植え替えで皆伐が行われたりしました。しかし、植林した杉は腐葉土を作らず、森が生み出す水の貯水量も減ること等に人々が気づき、伐採を止める働きかけで森が保存されたそうです。残されたブナが、雨水を根元に集め、周囲に零した実生を育て、寿命を全うして倒れると、その空間を待ちかねたように若木が枝を伸ばし、森を持続させている様を見て、我が身も斯く有れかしと思った次第です。