弁護士 岩波 耕平

 令和4年10月1日、インターネット上の誹謗中傷に対する投稿者特定の手続きとして、新たに「発信者情報開示命令」という制度が始まりました。
 誹謗中傷の投稿者に対し損害賠償を請求するためには、まず投稿をした人物(発信者)を特定する必要があります。
 従来、発信者を特定するには、1段階目の手続きとして、裁判所に仮処分の申立てを行い、サイト管理者(以下「CP」)からIPアドレスを開示してもらい、2段階目の手続きとして、そのIPアドレスを管理する接続プロパイダ(以下「AP」)に対し、契約者情報の開示を求める訴訟を提起する必要があり、特定まで1年以上かかることもありました。
 「発信者情報開示命令」では、裁判所の非訟手続により、一度の手続きで、迅速に発信者情報の開示ができるようになりました。
 このように発信者を特定する手続きが簡易化することにより、発信者を特定しようとする方にとっては極めて有利となる一方、これによって匿名での表現の自由が著しく侵害されることのないようにしなければなりません。
 例えば組織において内部告発するような場合を想定すると、匿名での表現が保障されていなければ、誰も不正を指摘することができなくなってしまいます。
 この点、今回改正される「発信者情報開示命令」においても、従前と同様に、名誉権侵害やプライバシー権侵害が明らかであると認められる場合にのみ申立てが認められることになります。
 現在、「発信者情報開示命令」制度は始まったばかりであり、裁判所の運用にどのような変化があるのか定かではありませんが、手続きが簡易・迅速になったからこそ、不当な誹謗中傷か否かの判断は、より慎重に行う必要があるでしょう。