弁護士 村山 裕

昨年10月、来年の大学入学共通テストから実施予定だった英語の民間検定試験導入は様々な格差をもたらすとの懸念に、文科大臣が「身の丈に合わせて頑張って」と既定方針を変えない姿が放映されました。教育に責任を持つ立場の発言として如何なものかとの声が沸き起こり、急遽、導入を延期し、今の中学1年生が受験する2024年度実施を目指し見直すとされました。

民間試験だと、それぞれの業務上の都合で指定される受験可能地への交通・宿泊費や受験料負担など、各地方の実情や家庭の経済力の格差が生じ、受験の準備や機会そのものに偏りが生じるとして、高校生や関係者が中止を求めていたものでした。

そもそも、この制度、グローバル人材育成を実現しようとする「教育再生実行会議」提言に応え、大学入試「改革」を通して高校教育や大学の役割の変更を求めたものでした。「身の丈」発言は本音であって、そこには憲法や教育基本法が求める、教育の機会均等や大学での学習権保障の観点はありません。

大学入学共通テストでは、他にも国語・数学で記述式問題導入が予定され、採点は民間委託で大学生のアルバイトも使うということでした。採点の質への不安や、自己採点ができない不都合があり、受験を控えた高校2年生からは、この点の中止も求める声が上がっていました。これも無視出来なくなって、来年の共通テストの日程に1年と1ヶ月を残すばかりになった昨年末、文科大臣は来年の記述式問題導入の見送りを表明しました。

高校生が、英語の民間検定試験導入見直しで安心せず、「延期だけでは今の中学生が犠牲になってしまうので声を上げ続ける」として、大学入試「改革」の二つの柱を頓挫させたことになります。18歳選挙権で「主権者教育」が提唱されたのに若者の投票率が低いなどと取り沙汰されていますが、身近な切実な問題に声を上げ続け政治を変えさせた高校生の姿勢を頼もしく思うとともに、一年の計として、これを支えていきたいと考える次第です。

(本紙入稿以降の事情を踏まえて改稿しました。)