弁護士 斉藤 豊

 会期終了間際に強行採決された「テロ等準備罪」(改正組織犯罪処罰法)については、テロ対策は必要だがもう少し丁寧に議論を重ねた方がよかったのではと思われた方も多かったでしょう。成立手続の不当さは、森友・加計学園問題隠しのためとも言われ、一強総理の強引さをあらためて際立たせました。しかし、手続もさることながら、この法律はその内容においてテロ対策とは関係のない極めて問題の多い法律であることを忘れてはなりません。

 今回の改正法は、「共謀罪法」とも呼ばれています。それは、この法律の本質がテロ対策にあるのではなく、わが国の刑法体系にない「共謀罪」(犯罪の実行の準備=「予備罪」以前の行為を処罰の対象とする)といった犯罪類型を新たに創設し、これを既存の多くの犯罪に適用することを本質とした法律であるからです(日弁連会長声明)。「テロ等準備罪」というと、テロ集団がテロの準備をする行為だけを規制する法律のような印象を受けます。しかし、この法律によって規制される犯罪の大半は組織的テロとは関係がないものばかりです。したがって、「テロ等準備罪」の呼称は、法律の本質から国民の目をそらすためのまさしく「印象操作」そのものです。

 政府によると、共謀罪法の導入は、国連の国際組織犯罪防止条約の批准のためとも宣伝されていました。しかし、この条約はマフィア等の利益目的犯罪対処のためのものであり、テロとは関係なく、日本は現行法のままで批准することに問題はないと言われていますし、本法で創設された共謀罪処罰も義務付けられていません。その他、そもそも誰が共謀罪の対象になるのかといった基本的理解についても担当大臣の答弁が迷走を極めたり、オリンピックのために必要だという明らかな嘘など、知れば知るほどこの法律には問題が多すぎることがわかります。

 今後は、この法律が濫用され、国民のプライバシーや基本的人権が不当に犯されないように、粘り強く警戒の目をもって監視しなければなりません。