弁護士 仲村渠 桃

 2024年正月号で紹介しました、学校法人目白学園による賃金削減を内容とした就業規則変更が無効であるとの確認を求めた裁判は、この度最高裁において追加提訴分も含めて全て就業規則変更が無効であるとの判決が確定しました。
 経緯を再度振り返りますと、この裁判の発端は、今から5年も前の2020年に遡ります。2020年4月1日、学校法人目白学園は、18歳人口の減少の影響により学園の将来の財政状況の悪化が見込まれること、将来の校舎の建て替え費用を捻出するにあたり、工事単価の上昇等を見越して早期に財務立て直しを図る必要があることなどを理由に、一定の年齢の教職員に対し、定期昇給の停止・給与の減額等を内容とする就業規則変更を強行しました。これにより賃金・賞与・退職金につき最大約1500万円もの生涯賃金の減少となる就業規則変更の有効性について争われたのが本件です。
 追加提訴も含め、第一審は原告側の完全勝訴に終わりましたが、その後法人は控訴しました。そして控訴審では、法人は改めて、将来の在籍者数の減少とそれに伴う学納金の減収が生じることは明らかであること、将来の校舎建て替え計画も具体的に進んでいること、そして一審敗訴を受けて法人が賃金削減に対する経過措置を設けた事で大幅な賃金削減の影響を受ける教職員も減少していることなどを主張してきました。
 これに対して、控訴審判決は、そのような法人の主張にいずれも具体的根拠が欠けることを明言し、経過措置による激変緩和措置もその効果は限定的に過ぎないとして、総額1000万円以上減の負担を受ける者も出るような就業規則変更は無効であると判断しました。法人はその後最高裁へ上告したものの、上告を受け付けない旨の決定が速やかに出され、本紛争は原告勝訴が確定しました。
 最高裁による上告を受け付けない旨の決定が出た後、法人はようやく、2020年4月1日に実施した就業規則変更につき賃金削減等教職員に不利益に変更された部分については従前の水準に戻し、同規則変更によりかえって教職員に有利に変更された部分についてはそのまま維持する旨方針を転換しました。
 賃金を一方的に削減する不当な就業規則変更に対し裁判所がNOを突き付けた本件裁判の結論は勝って当然の内容とも言えますが、このような不当な措置に対し勇気を振り絞って声を上げ、5年の長きにわたりたたかい続けた原告の方々があってこそ、このような全面勝訴判決が得られたのだと思います。