弁護士 加藤 文也

 奥村土牛が画家を志し修行を始めたころ、大先輩の横山大観から、どんな作品を制作する際にも常に宇宙を思い描いて画くようアドバイスを受けたという。が、土牛は、それは自分にはできないと考え、ひたすら描きたいと思った対象と真摯に向き合い、それを作品にすることを心がけ、地道に長年に渡って制作活動を続けた。土牛は遅咲きで、最高傑作といわれる鳴門海峡の渦潮を描いた作品が制作されたのは70代に入ってからであった。
 私の郷里の先輩でもある彫刻家の舟越保武は、75歳の時病に倒れ、利き手の右手を含む右半身が不自由となった。彼は再起するにあって、それまでの自分の生き方を見つめ直し、生命ある限り、仕事に熱中する一人の職人として生きていくことを誓い、左手で創作活動を行い、90歳で亡くなる時まで仕事を続け、精神性の高い味わい深い作品を残している。
 私も今年で71歳になる。これらの先達に学び、法曹を志した初心を忘れず、これまでの仕事を見つめ直した上、息長く仕事を続けていきたいと思いを新たにしている。