[憲法特集]
弁護士 新井 章

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もともと安倍首相の「9条改憲」の企ては、かねてより彼が執心・高唱してきた「憲法改正」計画の“大眼目”であり、彼はこれを“突破口”として、わが国戦後の平和と民主主義の憲法体制→政治体制を改編・覆滅し、戦前の好戦的な国家主義体制を“復活”させようと目論んできたが(彼のいう「戦後レジームからの脱却」)、国内外の平和・民主勢力の根強い反撥・抵抗に遭って“足踏み”を余儀なくされてきた。ところが、ここへきて、この夏の参議院選挙で勝利できれば国会での改憲発議が可能となり、彼にとっては「9条改憲」の最後のチャンスとなるものと思い定めているようである。

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だが、それだけに今般の安倍首相の9条改憲案には、なりふり構わぬ性急さやそれゆえの粗暴・粗雑さが目立つ次第であって、その負の特性・欠陥は、9条改憲案そのものの内容に最も露わとなっているということができる。

dronepc55さんによる写真ACからの写真

というのは、彼の9条改正案の内容は、「憲法9条1、2項はそのままにして、3項で政府が『自衛隊』を保持できるとする条項を付け加える」とするものであるが、ご承知のように、わが憲法9条の1項は、国家としての戦争と武力の行使を禁ずる「戦争放棄」の条項であり、また、2項はそれを前提とした「戦力不保持」の条項であって、かような1、2項の定めをそのままに残して、これらの条項と「自衛隊」という対外戦闘の武力組織(戦力)の設置・保持を許容する軍事条項とを併存させるなどということは、論理的(法理的)に矛盾撞着して法的に不可能であり、まともな議論の対象となり得るものではない(正気の沙汰ではない)。

だからして、数年前に公表された自民党の改憲案でさえも、自衛隊=戦後日本軍の保持を合憲化するには現行9条の1、2項を削除するほかなしとしていたのであって、この一事に照らしても安倍首相の改憲案に道理がないことは余りにも明らかである。