弁護士 井澤 光朗
弁護士 松川 邦之

 
1 はじめに

 事務所が設立されて50年、その間になされた司法制度改革の一環として、市民の方により身近な司法を実現するべく、様々な制度が導入されました。また、社会の変化に応じて、法曹に求められる役割にも変化が起こっています。本稿においては、裁判傍聴活動等を通じて見られる司法制度の変容と今後の課題、近年、社会構造の変化により今後法曹に求められるリーガル・サービスの内容について、その内容と今後の展望を紹介致します。

2 裁判ウォッチング活動

(1) 今年で20年目の活動

 市民に身近で、開かれた裁判所を目的に裁判ウォッチング市民の会を立ち上げて、今年で20年となります。当会は、裁判傍聴を中心とした各種講演会やシンポジウム、本、ビデオの製作を中心的活動として行ってきました。特に、裁判傍聴は毎月一回、主に地裁での刑事事件と少額訴訟(60万円以下の金銭債権につき、簡易・迅速な解決をめざし簡易裁判所にて行われている裁判制度)を中心に行っております。

(2) 裁判員裁判制度と傍聴人数の増加

 会を立ち上げた1993年頃は、社会で注目されているような裁判を別とすれば、裁判の傍聴者などはほとんどいない状況でしたが、ここ最近はどこの法廷にも、裁判関係者だけでなく、多くの傍聴者が見られるようになりました。とりわけ、近年裁判員裁判が始まったことから、裁判に対する市民の関心は高く、傍聴者の数は増えてきているように思います。当会も、裁判員裁判制度が開始する以前において、陪審員制度の研究・検討をした時期がありました。裁判員裁判と陪審員制度は、市民の参加という点では共通していますが、裁判員裁判が陪審員制度と異なり事実認定だけでなく量刑まで決めること、裁判員裁判には市民と一緒に裁判官をも入り評議し多数決で結論を出すことなど、大きな違いもあります。その意味でも、裁判員裁判の検証のために、裁判員裁判の傍聴活動は重要なものですが、朝から夕方までの法廷が3~4日連続行われる裁判員裁判を、全て傍聴することは難しいのが現状です。

(3) 少額訴訟制度

 少額訴訟については、同制度が開始した1998年より傍聴を続けています。一般市民が気軽に裁判所の法的サービスを利用出来るようにするというのが少額訴訟の制度趣旨でしたが、現在かかる趣旨に逆行し、審理時間は短縮され、裁判所からの説明に対しどれだけ利用者が理解をし、満足しているかについては大いに疑問が残されているところです。

(4) 傍聴を通じた裁判所への提言活動

 現在、裁判ウォッチング市民の会においては、傍聴を通じて得た市民の声を裁判所、検察庁、弁護士会に届けるべく、これまでの刑事裁判及び少額訴訟傍聴者のアンケートを集計・分析する活動を行っています。傍聴活動を中心として、裁判傍聴をする人が増えてきていることは喜ばしいことですが、裁判の監視・改善を実現するためには、裁判所に市民の声を集め、提言していくことが重要です。

(5) これからの裁判ウォッチング

 裁判ウォッチング市民の会の活動は、市民運動としては息の長い運動となっています。しかし、いつの時代も司法への市民の監視が必要であることに変わりがない以上、じっくりとゆっくりと楽しく運動を続けていこうと考えています。現在、会の構成員も少しずつ世代交代を迎えつつあります。新しい息吹を加えつつ、更に活発に活動していきたいと思います。

3 高齢者世代とリーガル・サービス

(1) 高齢化社会の到来と法律家の役割

 我が国は、全人口のなかで65歳以上の高齢者の占める割合が増加の一途をたどっており、いわゆる超高齢化社会を迎えています。高齢者が安心して生活し、その生涯を満足のいくかたちで終えることができるためには、医療、年金、福祉、住居等を含め、多くの課題を解決していかなければなりません。そこには社会的なものもありますが、法律家にとっても高齢化社会にあって、それ応じた新しい役割が期待されるようになってきています。

(2) 高齢者を狙った犯罪行為・悪質商法への対応

 最近、高齢者をターゲットとした不当・悪質な商法や卑劣な犯罪の被害が後を絶ちません。様々な手法で高齢者を騙す「振り込め詐欺・オレオレ詐欺」の被害は多発し、資産を狙った悪質な訪問販売や投資への勧誘等も次々と発生しています。また、介護が必要になり施設に入所した後には、思わぬ事故が発生したり、施設従業員による虐待等の問題が生じることもあります。これらに対しては、弁護士による法的な対応が必要な場合があり、それに的確にリーガル・サービスを提供することが弁護士の役割となってきています。

 しかし、実際に被害・問題が発生した後に救済策を講じるよりも、やはり被害の発生を事前に防止するべきでしょう。そのためには、高齢者が被害に遭わないような社会を創っていくべきですが、法律家(弁護士)の関わりについて言えば、日頃から予防法学的な観点で高齢者の方と継続的な関係を持ち、必要な情報を提供して被害を防止するとともに、万が一被害にあわれた際に、いつでもご相談に乗ることができる状況を作っておくことがあります。利用される方にとっても、日頃からご自身が信頼のできるリーガル・サービスの担い手が身近にいることで、安心をして日々の生活を送ることともつながるものとなりえましょう。

(3) 信頼関係を基にしたリーガル・サービスの提供

 高齢者の方々に関連する法律業務には、認知症をはじめとする判断能力が衰えてきたときに財産管理や契約の代理などを行う成年後見・保佐・補助等としての関わりや、成年後見の備えとしての任意後見人としての関わり、また、遺言書の作成などいわゆる相続対策を含む業務などがありますが、いずれも高齢者の重要な財産にかかわる問題を扱うこととなります。

 これらの依頼者にとって重要な問題を扱う法律家としては、専門知識を充分に身につけておく必要がありますが、それとともに高い倫理性を備えて業務に臨む必要があります。昨今報道されたような成年後見人弁護士による財産管理金横領事件のようなことは、あってはならないことです。日々の研鑽と厳正かつ良心的に職務に臨む姿勢が、弁護士に求められる絶対の条件となります。

 その上で、例えば、弁護士が、社会生活上のかかりつけ医のような存在として、良心的な相談・支援を継続的に提供する個人顧問契約・ホームロイヤー契約のようなサービス提供の関係を作っていくことが考えられます。これによって、先に述べたような日頃からの高齢者の方々との関わりを持ち、情報提供やいつでもご相談に乗れるような環境の下で信頼関係を築き、さらには福祉・医療分野の方々とも提携をして、高齢者の方へのより幅の広い支援体制を作ることが、今後法律家に求められる役割であると考えられます。

 当事務所では、こうした観点から、高齢者の方々がもっと気軽に法律家と接し、必要なリーガル・サービスへのアクセスを容易なものにするために無料講座や無料法律相談の取り組みを始めたところです。