民主党の歴史的大勝となった昨年の総選挙の直前に、ヒョウのキャラクターを使った全面広告が新聞各紙に掲載されたのを覚えていますか?「一人一票実現国民会議」という、元最高裁判事、弁護士、実業家、ジャーナリスト、作曲家等々が発起人・賛同者に名を連ねる組織が掲載した意見広告で、総選挙の際に行われる最高裁判所裁判官国民審査で、投票価値の平等を軽視する最高裁判事を罷免する投票をして、投票価値の平等を実現しましょうという趣旨のものでした。結局、国民審査では誰も罷免されることはありませんでしたが、「国民会議」から事実上名指しされた2名の判事については、東京、神奈川、千葉で他の判事より突出して罷免支持の投票が多かったといいますから、多くの国民の関心を惹きつけたことは間違いないようです。

 その総選挙・国民審査からほどない昨年9月30日、最高裁判所大法廷は、2007年7月29日施行の参議院議員通常選挙における一票の価値の較差(最大較差は神奈川県と鳥取県の約4.86倍)についての判決を言い渡しました。

 過去の最高裁判例では、衆院選で約3倍、参院選で約6倍を超えると違憲もしくは違憲状態と判断されることが続いていましたが、この5倍近い投票価値の較差を、国民審査間もない最高裁がどのように判断するのか注目が集まりましたが、結論から言うと、法廷意見(多数意見)は合憲とするもので、5倍近い較差があるとはいえ、2006年の議員定数配分の是正(四増四減)によって、その前の選挙(5.13倍)よりは較差が縮小し、その後も引き続き定数較差問題についての検討が行われていることなどを理由に、国会の裁量の範囲内で合憲という判断を示したのです。

 ここまでであれば、従来の判例を踏襲した判断ということになります。しかし今回の最高裁は一言釘を刺すのを忘れませんでした。曰く、「投票価値の平等という観点からは、なお大きな不平等が存する状態であり、選挙区間における選挙人の投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあるといわざるを得ない。」「国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であることにかんがみると、国会において、速やかに、投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて、適切な検討が行われることが望まれる。」と異例の注文を付けたのです。

 また、15名の裁判官のうち5名までが憲法違反という反対意見を付けたほか、多数意見10名のうち2名は、「最大較差4倍超という数字をもってなお平等が保たれているということは、本来無理な強弁」、「このような較差状況は、投票価値の著しい不平等状態に当たると認めざるを得ず」とするなど、限りなく反対意見に近い補足意見を付けています。

 今年は参議院議員通常選挙が行われます。直近の国勢調査では、今も最大約4.98倍の較差が生じているようですが、このままでは最高裁の注文は間に合いそうにありません。