弁護士 加藤文也弁護士 渕上 隆
「日の丸・君が代」訴訟弁護団事務局 伊藤清江

 

渕上  昨年9月21日、東京地裁(難波裁判長)は東京の「日の丸・君が代」強制について違憲とする原告全面勝訴の判決を出しました。そこで、この国歌斉唱義務不存在確認等請求訴訟(予防訴訟)の弁護団事務局長である加藤弁護士、弁護団事務局の伊藤清江さんに、「日の丸・君が代」訴訟について、さらには、教育に関わる様々な問題について、お話しをうかがいます。
 東京都を相手取った裁判というと、何か特殊な人たちが起こしている裁判と思われる方もいると思うのですが、日頃、「原告」に接している立場からみて、この裁判に立ち上がった先生方というのはどういう方々ですか?

伊藤  この訴訟は、402名もの教職員が起こしたものですが、実に多様な考えを持った先生方が参加しています。日の丸、君が代は好きで、今まで起立し、斉唱をしてきたが、強制には承服できないとして参加された教師達もいます。どの先生方も生徒のことを大事に思い、しっかりした教育信念を持って仕事をされていると思います。

渕上  この判決の画期的な意義はどういうところにあるのでしょうか?

加藤  難波判決の意義は、第1に、都教委の教職員に対する「日の丸・君が代」強制について、思想・良心の自由の制約の問題として捉え、精神的自由についての厳格な審査基準を適用して、憲法19条で保障する思想、良心の自由に反するとする明確な違憲判断を示したことです。第2は、学習指導要領の国旗・国歌条項について、教育基本法第10 条1項で禁止する「不当な支配」についての解釈論を展開し、教育の自主性尊重等の見地から教育現場に義務づける根拠とならないとの判断を示し、都教委が教職員に対して「日の丸・君が代」を実際上強制する「10・23通達」及び、校長の職務命令を「不当な支配」にあたるとしたことです。
 判決当日、難波裁判長の判決言い渡しを聞いて、多くの原告の先生方が涙を流して喜んだのが印象的でした。

渕上  予防訴訟は、いわゆる「10・23通達」に端を発する東京都における学校現場での「日の丸・君が代」の強制に抗して、教職員の方々が立ち上がったものですが、現在の東京の教育現場の状況はどうなっているのでしょうか?

伊藤  裁判を通じて見えてきたことは、実際に生徒達に向き合い教育実践を行っている教師や教師集団、教育現場を無視して、都教委の意向を貫徹する上意下達体制がつくられているということですね。これに異を唱える教師達を排除するということを端的に示したのが、「10・23通達」による処分ではないでしょうか。それは、本当に徹底しています。

渕上  現在、教育基本法の「改正」が議論されています(2006年11月現在)。一方、東京都における現状というのは教育基本法改正を先取りしたものであるとも言われています。 教育基本法改正問題についてはどのようにお考えです?

加藤  東京都教育委員会の中には、東京都は教育基本法の改正を先取りしたと明言する委員もいましたが、難波判決はそれに対して違憲、違法との判断をしたことになります。政府案は、「国を愛する態度」について規定しておりますが、難波判決は、人の精神活動は内面と外面が密接不可分に結びついており、切り離しは不可能との判断を示していることから、この規定に基づいて教育現場で「日の丸・君が代」を強制することになれば違憲となる可能性が高いと思われます。

渕上  また、最近、学校におけるイジメの問題であるとか、必修科目の履修漏れ問題であるとか、教育に関わる様々な問題が社会問題となっていますが、現在の教育の実情にはどのような問題点があるとお考えですか?

加藤  教育という営みは、個人の観点からしますと、学習し、成長、発達することは人が人間社会の中で生きていくようになるための最も基本的な権利といえるものです。一方、国や行政にとっても、その国や地域の経済的力量は、そこに住む国民・市民の力量によって決まることになるのであり、教育に強い関心を持つのは当然と考えます。教育の問題は、この2つの緊張関係のなかで考える必要があります。
 しかし、最近のわが国の教育の問題は、国や行政の管理、規制が強くなりすぎ、個人の学習権保障をという視点がないがしろにされており、そのことから、イジメ等多様な問題が生じているように思われます。 教育についてはその他にも多くの問題があります。今後とも継続して解決のために一緒に考えていきましょう。