弁護士 江森民夫/弁護士 井澤光朗/(司会)弁護士 西岡弘之

 

西岡  今日は、この数年中に行われる予定の法曹人口の大幅な増大が、社会にどのような影響をもたらすかという点について、江森、井澤両所員にお話しいただきたいと思います。
 まず、「法曹人口の増大」が今後どのように進められていくのかという点について、ご存じない方もいらっしゃると思いますので、簡単に説明していただきたいと思います。これまでも司法試験合格者は年々増加してきましたけど、今後、さらに大幅な増加があるということですね。

井澤  かつて司法試験合格者数は毎年500人程度という時期が長く続いていましたが、1990年代に入り徐々に合格者数を増やしてきました。1999年には1,000人を超え、2004年、2005年には、1,500人弱の合格者を出しました。
 そして、2010年ころには年間3,000人程度の新規法曹の確保を目指しています。現在日本の法曹人口は弁護士が約2万人、裁判官が約2,500人、検察官が約1,500人、総計で約2万5,000人程度ですが、2018年ころには法曹人口を5万人規模にする予定です。裁判官、検察官の大幅増員を行うことはあまり考えられませんので、増加した法曹人口のかなりの部分は弁護士に流れてくると思われます。

西岡  ちなみに、日本の法曹人口は、他国と比較してどのような感じなのでしょうか。

井澤  例えば、現在の人口10万人に対する法曹人口はアメリカで約365人、フランスで約80人であるのに対し、日本では約20人です。日本の法曹人口が現在の倍の5万人程度になっても、10万人対する法曹人口は40人程度ですから、アメリカと比べれば、まだかなり少なく、フランスと比べても半分程度ということになります。

西岡  では、我が国における「法曹人口の増大」はどのような要請から進められることになったのでしょうか。その背景について、御説明下さい。

江森  現在進められている司法改革は、現状の司法制度全体が十分に国民の権利擁護や、法的紛争の処理のために機能していないという認識のもとに、これを改革する司法改革の一貫として、市民と弁護士へのアクセスを容易にすること、法律扶助制度等の法的サービスを増大すること、法的な紛争が早期に解決できる制度を整備することなどが進められようとしています。
 そのためには、法曹人口を大幅に増大させる必要があるという考えで進められています。

西岡  法曹人口が増大することで具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。

江森 法曹人口が増大することにより、市民は弁護士にアクセスしやすくなるといえます。たとえとして病気の時に近所の病院へ行くような形で、弁護士事務所を訪れるような制度などと言われています。
 また、法曹人口の増大により、被疑者弁護制度等市民のための法的サービスを担うことが可能となったり、弁護士の過疎地域の解消にも役立つといえるでしょう。

西岡  逆に、法曹人口の増大によるデメリットというのも考えられるでしょうか。

井澤  まず、法曹人口が増大しても法曹の質を維持できるのかという問題があります。法曹人口の増大に伴なう弁護士の経済的基盤の低下も考えられるので、優秀な人材を法曹界に確保できるかという問題があります。
 また、法曹人口が増大することにより、弁護士の競争は激化することになり、安かろう悪かろうということも起きかねません。さらに、法曹人口が増大しても、経済的に見合わない事件などでは、その権利実現がしやすくなるとは言えないことです。

西岡  そのような問題についてはどのように対処していったらいいと思いますか。

江森  法曹人口は年間3,000人まで新規法曹を増やすことになっていますが、それが適正規模かどうかは全く検証されていません。その意味では国民的需要の観点から適正な人数を今後検証していく必要はあるのではないでしょうか。質の問題については弁護士会の研修の充実はありますが、弁護士自身が日常的に研修、研鑽をしていく必要があると思います。

井澤  優秀な人材を確保するためには、弁護士業務を魅力ある仕事にしていく必要があります。また、市民の弁護士に対するアクセスは増大しますが、安ければいいというような選び方はかえってマイナスになる可能性があることを認識してもらうことが重要です。

江森  人権問題、社会的問題にかかわる裁判などについてはこれまでは弁護士のボランテイアで担われてきた部分も多かったのですが、これからは弁護士の費用もきちんと支払うことができるほどの市民運動の成長が必要になっていきます。

井澤  いずれにしても、法曹人口の増大がどのようなことをもたらすかについては、予測し得ない点も多いと思われますので、市民にとって本当によい情況が導かれているかということについて、今後も注視していく必要があると思います。