18歳人口の減少と私学経営の困難さが問われて久しい。昨年12月22日にさいたま地裁で言渡された東京商科学院事件の判決は、ともすれば経営優先に流れがちな私学経営者に対して、教育の基本を守ることの大切さをあらためて確認させた事件であった。都内でも老舗といわれた専門学校を経営していた旧経営母体の学校法人は、平成10年7月、年度途中で突然倒産を宣言し、当時4300人いた学生と260人いた教職員は行き場を失った。この学校を引き継いだのは、旧法人の関連会社が資金援助をし、旧法人の管理職らが急遽立ち上げた新たな学校法人だった。この新法人は、在学生4300名だけでなく、校名、校地、校舎、教材教具等の備品も含め、旧法人の借金以外は学校全体を丸ごと引き継ぎ、新旧法人で、いわば学校の売買が行われた形となった。例外は教職員だった。約150人のスタッフはすべて旧法人時代の教職員から採用されたが、新法人へ残ることを希望した者のうち30名は不採用となり、それまでに自主退職をした者を含めると結果的に100人近い大リストラが実行された。不採用者の中には、旧法人の経営破綻責任を追及し、教職員の雇用確保を要求していた労働組合の活動家全員が含まれていた。今回の事件は、新法人側が民事訴訟を提起して、新法人への採用を求めていた組合員を被告として、雇用の義務のないことの確認を裁判所に求めるという異例の裁判だった。

 事件は、いわゆるJR型といわれる雇用主交替に伴う実質的解雇の問題を、EU 諸国などと異なり十分な労働者保護法制のないわが国法体系下でも救済できるかという点が争点となった。判決は、新法人には、教育環境を維持する公的な義務があり、学生にしわ寄せが及ぶような恣意的な不採用は許されないという立場を明確にし、授業に支障が生じる形で組合員を無理やり不採用とすることはできないと判断した。地裁限りの判断であるが、リストラは当然、企業売買は経営を最優先といった風潮の中で、学校現場まではそうはいかないと、警鐘を投げかけた判決となった(担当は、斉藤、金久保、西岡)。