事実認定
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司法試験に合格した後、裁判官、検察官、弁護士になるためには、原則として、最高裁判所に司法修習生として採用され、司法修習を終えなければいけません。
司法修習を通じて学ぶことの中で特に重要なのは、「事実認定」です。もちろん、法律そのものとか、手続きなどを学ぶことも重要ですが、トラブルや事件を解決していく上で、何があったのか、という、法律に照らした評価の対象を特定していく作業は欠かせません。
証拠から認定できる事実は何か、なんて簡単なことのようにも思えますが、実際に取り掛かってみると案外難しいものです。
よく小説やドラマで、関係者によって証言が食い違う場面がありますが、実際の事件でもそのような事態に直面することはあります。誰かが嘘を言っているならまだ簡単ですが、証拠や状況から見ても嘘と決めつけることもできない、なんてこともあります。
立場やものを見る角度が違うだけで、それぞれが捉えた「真実」がお互いに食い違うことは決して珍しくないのです。
司法研修所の授業で、男が襲いかかってくる喧嘩相手に向かって拳銃を構え、相手からの攻撃を防ぐために足を狙って発砲し、撃たれた相手が怪我をしたという事例が取り上げられました(うろ覚えで恐縮ですが)。発砲した男が被疑者で、その罪責や如何、というわけです。
銃刀法違反や火薬類取締法違反は別として、足を狙ったと言っているのだから、傷害の故意はあって、襲いかかってくるのを防ごうとしたのは正当防衛か、あるいは過剰防衛か、なんてことを修習生同士で議論していると、教官から「殺人未遂」とぴしゃり。
いかに被疑者本人が「足を狙った」と殺意を否認する供述があったとしても、それを鵜呑みにできるのか。そもそも拳銃という人を殺傷する能力のある違法な凶器を持ちだして、人に向けて発砲する行為から、殺意は優に認定できるというわけです。これには、ああなるほどと思わざるを得ませんでした。
この授業が検察(刑事裁判や刑事弁護ではなく)であったことも、認定に影響があったのかも知れませんが、司法試験に合格したとはいえ、実務に関しては所詮ひよっこだなあと思い知らされたのです。
故意という主観的事実も、客観的事実と整合するか、それが社会通念上合理的であるかといった観点を踏まえて認定されなければならないわけです。
しかし、もちろん一見荒唐無稽にも思われる弁解も、突き詰めてみると、相応の裏付けが発見されることもあるので、油断はできません。特に、孤独な立場に追い込まれた人の味方であるべき弁護士としては、この点をゆるがせにはできません。時には常識とされていることさえ疑う目を持たなければいけません。
事実認定とはとてもシビアなものなのです。
たとえば、異性の部下と仕事上の打合せやプライベートの相談のためにラブホテルを利用したが、男女の関係はなかったという弁解も、・・・。
これはなかなか厳しいぞ。
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