SNSや掲示板、動画サイトなど、インターネットを通じて誰もが簡単に情報を発信できる時代になりました。その一方で、匿名性を悪用した誹謗中傷や虚偽情報の投稿が深刻な社会問題となっています。これらの投稿によって、精神的苦痛を受けたり、仕事や人間関係に重大な影響が生じたりするケースも増加しています。
このような問題に対し、これまでは「プロバイダ責任制限法」が中心的な役割を果たしてきました。同法により、被害を受けた人は、サイト運営者や通信事業者に対して投稿の削除や投稿者情報の開示を請求することができました。
しかし、この制度には限界もありました。例えば、対応する事業者によって削除基準や対応の迅速さに大きな差があり、対応が不透明で不十分なケースも散見されていました。また、プラットフォーム側(SNSを運営する事業者など。)の対応が遅れた結果、被害が拡大することも少なくありませんでした。
こうした課題を受けて、2024年に「情報流通プラットフォーム対処法」が新たに制定され、2025年4月から施行されています。この新法は、誹謗中傷や虚偽情報の拡散といった被害に対し、プラットフォーム事業者に明確な責任と対応義務を課すことを目的としています。
例えば、一定の規模を持つプラットフォーム運営事業者には、利用者からの苦情や削除要請に適切に対応するための体制を整えることが義務づけられ、苦情への対応方針や判断基準を策定し、公表することが求められています。
また、どのような投稿を削除したのか、削除依頼や苦情にどのように対応したのかといった情報を「透明性レポート」として定期的に公表する制度も導入されました。これにより、利用者や社会全体が、各事業者の対応状況を把握しやすくなります。
これまで「どのような基準で削除されるのか分からない」「問い合わせても反応がない」といった不満があった点に対し、この新法は大きな改善となっています。運用の透明性が高まることで、プラットフォームにおける信頼性や利用者保護の観点でも一歩前進といえるでしょう。
一方で、こうした制度が広がるなかで、重要な論点となるのが「表現の自由」とのバランスです。誰かの投稿が第三者にとって不快であっても、すぐに削除対象となるわけではなく、意見の多様性や言論の自由は最大限に尊重されなければなりません。過剰な規制や削除が進むことで、正当な批判や社会的議論まで抑制されてしまうリスクがあるため、個別の対応には慎重な判断が求められます。
制度の運用が一方的にならないよう、削除の基準や手続に透明性と説明責任を持たせるとともに、異議申立ての機会や正当な発言の保護も制度的に整備される必要があるのではないでしょうか。
情報流通プラットフォーム対処法
カテゴリー:法律の動き