就業規則

就業規則とはどういうものですか?

 就業規則とは、多数の労働者の労働条件や職場の規律について使用者が定める規則の総称をいいます。
 そして、労働契約を締結する際に、内容が合理的であって、かつ、労働者に周知させていた就業規則に記載された労働条件については、労働契約の内容となります。(労働契約法7条本文)。なお、ここでの周知というのは、労働者がその就業規則の内容を知ろうと思えば知ることができたということを意味します。
 また、就業規則には大半の職場のルールが記載されていますから、労働条件など職場のルールがどうなっているかを調べるときには就業規則をみるとよいでしょう。
 なかには簡単に就業規則を見せてくれない会社もありますが、会社には就業規則を労働者が見ようと思ったときにみることのできる状態にしておく義務があります(労基法106条、労働基準法規則52条の2)ので、もし就業規則を見たいのに上司が見せてくれないといった場合には、お気軽にご相談ください。

会社が就業規則の規定を不利益に変更すると言っています。私たち従業員は黙って従うしかないのでしょうか。

 労働者と合意することなく、会社側が一方的に就業規則を労働者に不利益に変更することは基本的にはできません(労働契約法9条本文)。ですから、その就業規則の変更が労働者にとって不利益である場合、安易に就業規則の変更に同意すべきではありません。
 ただし、就業規則の変更が合理的で、新就業規則が労働者に対して周知されている場合には、例外的に、労働者が反対の意思を示していたとしても、就業規則の変更が認められることになります(労働契約法10条本文)。
 とはいえ、会社が就業規則を変更するためには、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合、それがない場合には労働者の過半数を代表するものの意見を聴かなければなりません(労働契約法11条、労働基準法90条)。そして、就業規則の変更が合理的かどうかの判断においては、労働組合等との交渉の状況も考慮されるため(同条)、やはり納得のいかない就業規則の変更には労働組合等を通じてはっきりと反対の意思を示しておくべきでしょう。
 また、労働者と使用者の間で、会社が就業規則の変更手続をとることによっては労働条件を変更されないとの合意(これを一般的に「不変更の合意」と呼びます)がある労働条件については、就業規則の変更が合理的であり、新就業規則が労働者に周知されていても、就業規則の変更によってその労働条件の内容が一方的に変えられてしまうことはありません(労働契約法10条但書)。
 したがって、「不変更の合意」がある労働条件にもかかわらず、会社が就業規則を変更することにより当該労働条件の内容を変更しようとする場合には、会社に対して、「不変更の合意」があるため、就業規則を変えてもその労働条件は変更されないはずである、と主張することが重要でしょう。

採用・雇用契約

就職活動で1社から内定をいただいたのですが、今後他社への就職活動をしてはいけないと言われています。従わなければいけないのでしょうか。

 従う必要はありません。
 内定を得た後であっても、他社への就職活動を続けることはもとより、他社から内定を得た場合にはそれまでに内定を得ていた会社の内定を辞退することもできます。
 一口に内定と言ってもその実態は様々なので、具体的な事実関係に即して考える必要がありますが、採用内定通知によって(始期付き・解約権留保付きの)労働契約が成立したと判断した最高裁の判例(大日本印刷事件・最判昭和54年7月20日)があります。「始期付き」というのは、労働契約は内定が出た時点で成立するが、実際に働き始めるのは例えば来年4月1日からになります、という意味で、解約権留保付きというのは、一定の場合には内定が出た後においても会社がその内定者を取り消すことができる、という意味です。
 そして、労働者の側には、2週間の期間を置けばいつでも労働契約を解約する自由が認められているため(民法627条1項)、一度内定を得ても、労働者はいつでもその労働契約を解約する(=内定を辞退する)ことができるのです。
 仮に、内定後、内定式等に参加して、「今後、他社への就職活動をしない」等の誓約書を提出していた場合であっても、それは変わりません。
ただし、内定を辞退したことによって会社に対して損害を生じさせた場合、会社から、不法行為責任や債務不履行責任に基づく損害賠償請求がなされる可能性が100パーセントないとはいえません。
 しかし、内定を辞退したことによって会社側に具体的な損害が生じたといえるケースは通常考えがたく、他社に就職することを決断した時点で誠意をもって速やかに内定を辞退する旨伝えるなどの対応をとっていれば、そのような責任を負う可能性はまずないといって良いでしょう。

賃金・手当て

一方的に給料を減額されました。全然納得できません。

 賃金の減額等の労働条件の変更は、労働者と使用者との合意に基づいてなされるのが原則なので、労働者の同意を得ずに会社の側から一方的になされる給料の減額は、原則として無効です。ですから、会社の側から一方的に給料が減額された場合、労働者は、それまでの額の給料を支払うことを会社に対して求めることができる、というのが原則だということになります。
 また、会社の側から給料減額の同意を求められたとしても、それに同意する義務はありませんから、給料減額に納得がいかないのであれば、同意すべきではありません。もし仮に同意してしまったとしても、その同意が有効なのかといった点について争う余地がありますから、諦める必要はありません。
 しかしながら、例外的に、会社の側が個別の労働者の同意を得ずに給料を減額することが認められる場合もあるということには注意が必要です。どのような場合に会社側からの一方的な給料の減額が認められるかというと、大要以下の通りです。

1 就業規則の変更による給料の減額

 労働者の同意がなくても、就業規則の変更が合理的であって、かつ変更後の就業規則が周知されている場合には、例外的に就業規則の変更によって会社の側が一方的に給料を減額することができます(労働契約法10条)。
 給料の減額が就業規則の変更によるものである場合には、就業規則の変更が合理的なものかどうか、法律に定められた労働者への周知等の手続がきちんとなされているかどうかを争うということになります。また、変更後の就業規則の内容が法令や労働協約に違反している場合には、就業規則の変更に労働者が拘束されることはありません(労働契約法13条、労働基準法92条)から、その点の確認も必要となります。

2 労働協約締結による給料の減額

 個別の労働者の同意がなくても、使用者と労働組合とが給料を減額する旨の合意(これを「労働協約」といいます)をした場合、その組合に所属している労働者は当該労働協約に拘束され、給料の減額に従わなければならないのが原則となります(労働組合法16条)。もっとも、労働協約による給料等の労働条件の引き下げには一定の限界があります。したがって、労働協約締結による給料の減額に納得がいかない場合には、締結された労働協約の内容が不合理であることや、締結の手続が不合理であることなどを主張して争うということになります。加えて、労働協約に拘束される労働者は、当該協約を結んだ組合に所属する労働者に限られるのが原則ですから、ご自身が協約を締結した組合に所属しているのかどうかについても確認する必要があります。

3 降格、配転による給料の減額

 懲戒処分や、人事上の措置としての役職・職位の引き下げ等の降格処分や、配転により職務内容が変わったことを理由として、一方的に会社が労働者の給料を引き下げることがあります。これらの場合には、給料の減額がどのような理由によるかによって、その減額が有効かどうかの判断基準も変わってきます。大まかにいえば、これらの場合には、懲戒処分等の降格措置そのものが有効かどうかを争うなどの方法が考えられるところです。また、単純に仕事の内容が変わっただけ(役職や職位の変更なし)なのに給料が減額されたという場合には、個別の労働者の同意や就業規則の定めがない限り、そのような措置は無効であるとして争うことができます。

4 個別の査定に基づく給料の減額

 年俸制など、個別の査定に基づいて会社の側が一方的に給料の減額をすることがあります。この場合には、そもそもそのような個別の査定制度に労働契約上の根拠があるか(就業規則の定めの有無等)、評価の基準や評価方法等の査定制度の内容が合理的なものか、実際になされた査定が合理的なものかどうか等について争うことが考えられます。

会社で使っている機械を不注意で壊してしまいました。会社からは、修理代を給料から天引すると言われています。しかたないのでしょうか。

 会社は、修理代金を給料から天引きすることはできません。仮に修理代金を労働者が負担しなければならないとしても、給料としてはその全額を受け取ることができます。
 会社は、賃金の全額を労働者に対して支払わなければなりません(労働基準法24条1項)。これを、「賃金の全額払原則」といいます。この規定は、賃金を労働者に確実に受領させることにより、労働者の経済生活の安定を確保するために設けられたものです。
 したがって、会社で使っている機械を不注意で壊してしまった場合に、会社がその修理代金を給料から天引きすることは、「賃金の全額払原則」に反し、労働基準法24条違反の行為となります。ですから、会社が勝手に給料から天引きすることができないのはもちろん、労働者と天引きをする旨の合意をしても、そのような合意は無効です。
 また、そもそも、労働者が職務遂行にあたり必要な注意を怠って、例えば今回のように仕事で使う機械を壊してしまったような場合には、会社から労働者に対する損害賠償請求について一定の制限がかかります。
 裁判例の中には、労働者に重大な過失がある場合にのみ労働者は会社に対して損害賠償責任を負うとしたものもありますし、損害賠償責任を負うとしても、その賠償額については会社の被った損害全額ということにはならない(一定程度減額される)ことが多いです。
 ですから、そもそも今回のようなケースでは、労働者が修理代金を負担しなければならないのかどうか、負担しなければならないとしてもその額はいくらなのか、といった点も考慮する必要があるでしょう。
 ご自身のケースが、裁判例でいうところの重大な過失にあたる事案なのかどうか、減額の程度はどのくらいなのかなど、お悩みの際はお気軽にご相談ください。

労働時間・休憩・休日・休暇

有給休暇を取ろうとしたら、上司から理由を問い詰められました。

 上司から有給休暇の理由を聞かれても、法律上は労働者がその理由を答える必要はありません。有給取得の理由を答えずとも、有給休暇を取得することができます。
有給休暇の取得は、法律によって労働者に認められた「権利」であり(労働基準法39条1項)、法所定の要件(継続して6か月以上勤務し、全労働日の8割以上出勤していること)をみたせば当然に発生し行使することができるものです。
 そして、有給休暇の利用目的は、労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由であると一般に考えられています(これを「年休自由利用の原則」といいます)。この年休自由利用の原則から、労働者は有休をとる際にその使途を上司や使用者に伝える必要はないと考えられているのです。
 もっとも、年休権は、労働者がその有給取得の時期を指定することによって有給休暇の効果を生じさせる権利ですが、その時期指定との関係で、会社の事業の正常な運営を妨げるおそれがあるときであっても、使用者が、休暇を必要とする理由によっては使用者側に認められる時季指定を変更することを差し控える可能性があるということで、有給取得の理由を尋ねること自体は問題ありません。これに対しても、労働者は前記の通り有給取得の理由を答える必要はありませんが、労働者が答えない場合に、会社が時季変更権を行使して有給取得の時期を変更することは認められる場合があることには注意が必要でしょう。

残業・時間外労働

会社から、残業は2時間まで、それ以上残業するときはタイムカードを刻印してからにするように、と言われています。これっておかしくないですか。

 会社が、残業をしないように指示したり、禁止すること自体はおかしくありません。したがって、会社が、「残業は2時間まで」と残業時間を制限する指示を出すこと自体はおかしなことではありません。しかし、使用者が残業を禁止している場合でも、残業の必要性(残業しないと指示された仕事が終わらない等)があって残業した場合には、時間外の労働時間として認められることになります。
 ですから、残業の必要性があって残業したという場合には、当然、残業代の支払を請求することができます。そして、タイムカードは、労働時間を証明する重要な証拠、つまり、残業代を請求するための重要な証拠となるものですから、「2時間を超えて残業するときはタイムカードを打刻してからにするように」との指示があっても、本来はそれに従うべきではありません。そもそも、会社が指定した時間以上に残業をするときは「タイムカードを刻印してからにするように」という今回のご相談のような指示は、本来会社が支払うべき残業代を免れようとするもので、不当です。
 もっとも、会社や上司等の命令に逆らうのはなかなか難しいでしょうし、実際上会社からの指示に従わざるを得ないという場合もあるでしょう。タイムカード以外にも仕事に使うパソコンのログイン・ログオフの履歴や、業務日報、労働者本人が作成していた労働時間のメモ等により労働時間を立証することも可能ですから、実際上会社の指示に従わざるを得ない場合には、日々の労働時間を正確に記録しておくことが重要になります。

先月末で退職した会社に対して残業代を請求しようと思っていますが、タイムカードなどがない会社だったので、残業したことをどうやって証明すればよいでしょうか。

 残業代を請求する際には、実際に働いた労働時間を示す証拠が必要となります。タイムカードがない会社でも、業務日報やパソコンのログイン・ログオフの記録など色々な物が考えられます。その他にも、例えば日々仕事の内容をメモしていた手帳などが証拠となることがあります。
 既に退職していても、法的手段を用いて会社にある証拠を取得することもできますから、残業代を請求するにあたり、どのような資料が必要なのか、会社にある資料をどのようにして取得するのかお悩みになられた際には、是非ご相談ください。

退職・解雇・懲戒処分

会社から解雇されました。どうしたらよいでしょうか。

 まずは、解雇に正当な理由があるかどうかを判断するために、会社がどのような理由で解雇したのかを知る必要がありますから、解雇の理由を記載した文書を提出するよう会社側に求めるようにしてください。会社は、労働者から解雇理由を記載した文書の提出を求められた場合、それに応じる義務があります(労働基準法22条)。
 そして、会社は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である場合でなければ労働者を解雇することはできません(労働契約法16条)。このような正当な理由のない解雇は無効となります。
 なお、解雇されてしまった場合であっても、もし解雇に納得できないのであれば、解雇を認めたり、解雇を認めたと受け止められてしまうような言動をしてないように注意してください。解雇には、上記の様な厳格な制限が法律上課されているため、会社側が、真実は解雇であるにもかかわらず、労働者が退職に合意した(合意退職)のだと主張することがあるからです。したがって、退職届の作成を求められたとしても、その場で応じることはしないようにしてください。

上司から辞表を書くように言われています。私は自分から会社を辞めるつもりはありません。結局解雇されてしまうのでしょうか。

 退職するかしないかはあくまで労働者本人の自由です。会社の側が労働者に対して、会社と労働者の合意によって会社を辞める契約を結ぶことを求めたり、労働者の側から会社を辞めるという意思を表示するよう求めることを、「退職勧奨」といいます。ここで重要なのは、労働者は退職勧奨に応じる義務はない、ということです。
 したがって、退職の意思がないのであれば、辞表を書く必要はありませんし、むしろ絶対に書くべきではありません。
 また、会社が労働者を解雇するためには、正当な理由が必要ですから、そう安々と解雇することもできません。退職の意思がないことを会社側に伝えても、退職勧奨がやまない場合には、弁護士から会社に対して退職勧奨をやめるよう通知したり、それでもやまない場合には法的手段をとることも考えられますから、会社からの退職勧奨にお悩みの際にはご相談ください。

先月末で会社を退職したのですが、離職票を交付してもらえませんか。

 まずは、会社に対して離職票を交付するよう求めてください。
 それでも会社が離職票を交付してくれないときは、お住まいの地域のハローワークに行って会社が交付してくれないことを相談すると、ハローワークから会社に直接連絡が行き、提出をうながしてもらって解決する場合もありますから、ハローワークに行ってご相談されると良いでしょう。
 また、離職者は、会社の所在地のハローワークの所長に対して、被保険者であったことの確認を請求することができ、その確認がされた場合、ハローワークの所長は、離職者の請求により離職票を交付しなければならないこととされています。したがって、まず会社に対して離職票の交付を求め、会社が交付しない場合には上記の手続を踏んで、ハローワークから離職票の交付を受けることができます。

セクハラ・パワハラ・いじめ

上司に性的関係を求められたのを断ったのですが、その後、営業職だった私は社内の雑用係のような仕事に異動させられ、それまで支給されていた営業手当などもカットされました。

 上司が部下に対して性的関係を求めることは、セクシャル・ハラスメントにあたります。ですから、上司から性的関係を求められ、それを断ったことを理由としてなされた異動は、会社の人事権の濫用(民法1条3項、労働契約法3条5項など)や、被害者の人格権を不当に侵害した不法行為(民法709条)、あるいは公序良俗違反(民法90条)として、無効となります。したがって、そのような理由に基づく職務内容の変更を理由とする営業手当のカットも無効として争うことができます。また、現在もセクシャル・ハラスメントが続いている場合、訴訟を提起するなどの法的手段をとることができます。さらに、ハラスメントを行った上司に対して損害賠償請求をしたり、使用者(会社)の責任を追及することも考えられます。
 ハラスメントを受けて、苦しい思いや悔しい思いをされていることとは思いますが、勇気をもって弁護士までご相談ください。

労働災害

業務中に大けがをして長期入院するはめになりました。

 業務中に、その業務によって傷病・死亡等の結果が労働者に生じた場合には、労働災害保険法に基づいて、傷病の療養のための給付や、療養のための休業補償としての休業給付、後遺症が残った場合の障害給付など、さまざまな給付金を受けることができます。
 これら労災給付を受けるためには、生じた災害が「業務上の」災害といえることが必要となります。「業務上」の災害といえるためには、業務を遂行している場合(「業務遂行性」といいます)に、地震等の自然災害や第三者の犯罪行為等外部の力によらず、業務に起因して生じたものであること(「業務起因性」といいます)が必要となります。
 実際に業務中にケガをした場合はもちろんのこと、宴会や運動会など一般的には業務をしているといえないと思われるものであっても、業務遂行性が認められる場合もあります。また、地震等の自然災害によるケガであっても、例えば地震による被害を受けやすい場所で勤務しているなどの場合には、業務起因性が認めらえることもあります。
 もし仕事中にケガをしたり、病気に罹ったりした場合には、労災補償の給付の可否について是非当所にご相談ください。

会社からマイカー通勤を認められているのですが、帰宅途中に追突事故に遭いました。

 労働者の通勤途中の交通事故等による負傷についても、通勤災害として労災保険給付を受けることができます。例えば会社から認められているマイカー通勤(帰宅中も含む)の途中で交通事故にあったような場合です。
 ただし、自宅から会社へと向かう途中や、会社から自宅へと向かう途中の事故であれば、どのような場合でも給付を受けられるというわけではありません。会社の業務と全く関係なく、普段の通勤経路から大きく離れて帰宅している間に生じた事故については、もはや通勤途中の事故とはいえず、労災給付が受けられない場合もあります。

非正規雇用

契約社員ですが正規の社員と同じ仕事をしているのに昇格も昇給もありません。

 正社員・非正規社員間の賃金格差を法的に是正できるのかどうかについては、法律上も争いがあります。とはいえ、同じ仕事をしており、同じ勤続年数の正社員と非正規社員との間の著しい賃金格差が不法行為となる、という判断を示した裁判例もあるところですから、諦める必要はありません。
 契約社員のような非正規社員と正社員との格差問題は、近時大きな社会的問題ともなっているところであり、賃金格差を是正する裁判例もあるところですから、会社の対応がおかしいと感じたら、非正規だからといってあきらめずに弁護士まで相談にいらしてください。

労働組合

そもそも労働組合って何なんですか。組合費は給料から引かれていますが、正直労働組合ってどんな組織かわかりません。

 労働組合は、労働条件(例えば賃金や雇用の保障)の維持改善など、主として労働者の経済的地位の向上を図ることを目的として、労働者が自主的に結成する団体です。使用者と労働者は、どんな条件で働くか両者で話し合って自由に決めることができます。
 しかし現実問題として、個々の労働者は、自分が雇ってもらっている使用者に対して経済的に弱い立場にあります。したがって、個々の労働者が、労働条件について使用者に対して自分の意思を表明し、しっかりと交渉して決めるというのは困難な場合が多いのが実際でしょう。
 そこで、労働条件を個々の労働者ではなく、労働者の集団で交渉することにより、使用者と対等な立場で労働条件を決めることを可能にすることが求められます。そのような目的から労働者が自主的に結成する団体のことを労働組合といいます。労働組合がこのような目的を十分に果たせるようにするために、労働組合には法律上様々な権利が保障されています。
 たとえば、「団体交渉権」と呼ばれる権利があります。これは、労働組合が代表者を通じて使用者と交渉することを権利として認めるものであり、憲法上も認められている権利です(憲法28条)。
 そして、労働組合法では、使用者の正当な理由がない団体交渉の拒否を禁止しています(労働組合法7条2号)。
 また、一定の条件を満たす正当なものである限り、ストライキをすることも認められています(憲法28条)し、労働者が組合員であること等を理由として、その労働者に対して解雇などの不利益な取扱いをすることも禁じられています(労働組合法7条1号)。
 ところで、「会社が組合費を給料から控除したうえで、これを組合に引き渡すものとする」という協定が会社と労働組合との間で結ばれることがあります。これは、労働組合が組合費を確実に徴収するためになされるもので、「チェック・オフ」と呼ばれます。一定の条件を満たせば、会社と労働組合はこのような協約を結ぶことができますが、この給料からの組合費の天引きに反対する組合員は、いつでも「チェック・オフ」の中止を申し入れることができるとした判例があります。したがって、組合費が給料から天引きされることに納得がいかないのであれば、会社に対して「チェック・オフ」の中止を申し入れて、給料全額の支払いを受けることができます。ただし、「チェック・オフ」を中止したとしても、労働組合から脱退したことにはなりませんから、組合費はご自身で支払い続ける必要があることには注意が必要です。

女性・育児・介護

親の介護のために会社を休まなければいけないことが続いています。もし会社を退職した場合、後日復職することはできるのでしょうか。

 仮に、労働者が自ら会社を退職する意思を表明して会社を退職した場合(要するに辞職した場合)、後日復職できるかどうかは法律上保障されていません。当然ながら、退職後に職場復帰可能な状態になったら復職する旨会社と合意しておくことや、退職後に再び会社と労働契約を締結することにより復職することは禁じられているわけではありません。
 しかし、会社がそのような合意や契約をするかどうかはあくまで会社の自由であって、法律上必ず復職できるとは限りません。また、退職後に復職する旨の合意を結ぶ場合については、そのような合意が法律上どのような性質を持つのか、労働者が他の会社に就職した場合に会社から損害賠償請求を受ける可能性があるのかといった点について検討が必要となると思われます。
 ちなみに、労働者は、要介護状態の対象家族一人につき、要介護状態毎に一度、通算93日の範囲内で、介護休業を取得することができます(育児介護休業法11条)し、介護休業に加えて、1年度につき5労働日を限度として、家族の世話を行うための介護休暇を取得することもできます(育児介護休業法16条の5)。介護休業を取得するかどうかお悩みの際には、一度、お住まいの地域の役所や包括センターなどに相談に行かれると良いかもしれません。
 また、その他にも短時間勤務などの措置を採ることを会社に対して求めることもできます(育児介護休業法23条3項)から、もしその会社で働き続けたい気持ちがあるのであれば、できる限り介護休業等の権利を行使して、辞職しないようにすることをおすすめします。これらの権利を行使しても介護のために仕事を続けられない場合は、会社との間で上記の様な復職の合意を結ぶことを交渉してみると良いと思います。ところで、会社は、労働者が介護休業の申し出をしたことや介護休業を取得したことを理由として解雇等の不利益な取扱いをすることはできません(育児介護休業法16条)。したがって、介護休業の申し出をしたり取得した場合に会社から解雇された場合には、解雇の理由が介護休業の申し出をしたり取得したことにあるということを立証することができれば、解雇は無効となりますから復職することができます。