自宅の建て替えを検討しているのですが、今の建物が敷地一杯に建っているため、解体工事のためにお隣の敷地に足場を立てさせてもらう必要があります。ところが、お隣の方が承諾してくれません。

 

 

 所有者はその所有物の使用に関する排他的な権利を持っているので、他者に使用させるか拒絶するかは所有者の自由である、というのが大原則です。例えば、筆記用具や本を人に貸してあげるかどうかは、所有者の一存で決められます。しかし、土地は「不動産」という言葉が示すとおり、隣接する土地と切り離すことができないので、自分が所有する土地を有効利用しようとすれば、どうしても隣地との間で利害が衝突します。

 民法には、一定の場合に隣地を使用できることを定める規定があります。

 2021年に改正される前の民法209条には「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。」(1項本文)と定められていました。この規定だと、建物の解体工事には適用できるのか一見分かりにくいのですが、所有者に隣地の使用を請求し、承諾を得ればよいということになっていました。もっとも、承諾が得られなければ、裁判所に承諾に代わる判決をしてもらう必要がありました。強い所有権が有効活用のハードルにもなっていたのです。

 そこで、2021年の民法改正では、隣地所有者などに事前に通知をすることで、解体工事も含めて必要最小限の範囲で使用できることになりました(改正民法209条)。建物の工事だけでなく、境界の調査・測量などに必要な場合についても明記されました。この改正法は、今年4月1日から施行されています。

 ご相談の件では、隣地の所有者(使用者も含みます)に事前に解体工事のための足場設置について、日時や設置場所、設置方法などを通知すれば、隣地に足場を立ててよいということになりますが、隣地所有者にとって損害が最も少ない方法でなければならないという規定もあります(同条2項)。損害に対しては補償をする必要があることはもちろんです(同条4項)。

 法改正があったからといって勝手はできません。当事者同士で話合いがうまく行かない場合は、裁判所の調停や弁護士会の仲裁などの手続を検討するのがよいでしょう。