誹謗中傷の投稿者に対し損害賠償を請求するためには、まず投稿をした人物(発信者)を特定する必要があります。
発信者を特定する方法としては、① 掲示板の運営者に対し発信者情報の開示を求める方法、② 裁判所に対し発信者情報の開示を求める方法がありますが、① の方法により発信者情報が開示されることはあまりありませんので、ここでは② の方法について説明します。
② の方法では、まず、プロパイダ責任制限法に基づく「発信者情報開示手続」により,裁判所に対して、掲示板の運営会社が保有するIPアドレス等の開示を求める仮処分の申立てを行い、開示されたIPアドレスをもとにアクセスプロパイダ(インターネット接続業者)を特定します。そして、特定したアクセスプロパイダに対して契約者情報の開示を求める訴訟を提起することによって発信者を特定します。
ここまで来て、やっと特定した人物に対する損害賠償請求訴訟を提起することができます。
そのため、損害賠償を請求する頃には1年以上経っていることも少なくありません。
また、「発信者情報開示手続」により裁判所に対し発信者情報の開示を求めるには、誹謗中傷と考えられる投稿により、投稿の対象となった方の権利が侵害されていることが裁判所に認められる必要があります(例えば、名誉権、プライバシー権)。
以上のように現行の法制度では、誹謗中傷の投稿者に損害賠償を請求するためには、2段階、3段階の手続きが必要になるため、相当長期間かかることになります。
もっとも、2021年2月には、プロパイダ責任制限法を改正する法案が国会に提出されました。改正案のポイントとしては、前記の「発信者情報開示手続」に加え、新たに「発信者情報開示命令制度」が設けられたことです。この新たな制度を駆使することにより、1つの手続きの中で発信者情報を特定することができるようになる可能性があります。本改正案の施行日は2023年以降になると予想されますが、これにより従来の発信者情報開示請求における大きなハードルであった期間の点は大幅に改善されるものと考えられます。