[我が家の正月料理]

 
 子供時代の実家の稼業は蕎麦屋でしたので、毎年大晦日は年越し蕎麦で大わらわでした。一夜明けた正月の料理と言えば、おせち料理やお煮しめにお雑煮といったごく定番のもので、ご紹介するような特別なことはありませんでした。
 ただ、正月のお餅が少し特別だったことはよく覚えています。
 お餅は、今でこそいつでも簡単に手に入りますが、当時一般的には正月の食べ物でした。しかし、蕎麦屋には力(ちから)蕎麦・うどんがメニューにあったため、我が家には一年中のし餅があったのです。夏場のおやつに焼き餅が出て目を丸くしていた友達の顔は忘れられない思い出です。
 いつでもお餅があったとはいえ、正月だけは違っていました。いつもの真空パックされたのし餅ではなく、つきたての柔らかいのし餅が届いて、これを切り分けていく時は、正月を迎えるどこかそわそわした気分になったものです。いつもよりよく伸びるお餅は少しだけ特別な正月料理でした。
 時代は下って、現在の我が家の正月料理も、こぢんまりとはしていますが、おせちにお煮しめにお雑煮というもので、夫婦とも関東風の味で育ったものですから、子供時代と代り映えしません。ただひとつ違うのは、元日早々初詣に出掛けたついでに、正月らしからぬファストフード店に立ち寄ってくるのが恒例になったこと。日頃はあまり利用しないだけに、これが我が家独特の正月料理(?)になっているのかも知れません。