弁護士 船江莉佳

 
1 はじめに

 消費生活にかかわるトラブルには、様々なバリエーションがあり、欠陥商品による被害、無用な商品を高額で購入させられる被害、不十分な説明での投資勧誘による被害等々、分類するだけでも容易ではありません。しかし、いずれにも共通するのは、誰もが巻き込まれかねない問題だということです。
 いわゆる医療事件もまた、広い意味では、医療サービスの提供を挟んだ医師・医療機関と患者の間の消費者問題と捉えることのできる側面を持っています。もちろん医療問題は単純な物品の売買などと同一視することはできませんが、健康や生命に直接かかわる問題であるだけに、トラブルが発生した際の深刻さは重大です。
 私たち東京中央法律事務所の弁護士は、こうした消費者問題や医療問題についても、法的解決を求められる場面として、地道に取り組んできました。

2 消費者問題、医療問題をとりまく社会の動き

(1) バブル経済崩壊以降の出口の見えない不況下で何とかして資産を増やしたいという心の隙に付け入るような、投資勧誘にまつわる事件は後を絶ちません。和牛預託商法事件、エビ養殖投資詐欺事件、エル・アンド・ジー事件など、大きなニュースになった事件もありますが、最近相談例の多い未公開株詐欺などは、私たちが消費者相談を通じて接する案件はほんの氷山の一角で、二次被害なども含め、かなりの数の被害があるのではないかと推察されます。
 また、製造年月日や産地などを偽って消費者に販売していた食品偽装事件や、衛生管理の不徹底による集団食中毒事件など、食品業者のモラルが問われるような事件が連日報道されていたのも記憶に新しいところです。
 携帯電話やインターネットの普及による通信販売をめぐるトラブル、高齢者や若年層をターゲットとした新手の悪徳商法などに対し、特定商取引法などの消費者保護法制の度重なる改正が行われ、近年では、消費者団体訴訟制度の創設、消費者庁設置など重要な制度改革も進められています。

(2) 医療問題に目を向けると、患者の権利意識の高まりの一方で、医師・医療機関側の時として過剰なほどの防衛医療、産科や救急などの診療科を中心とした「医療崩壊」が社会問題化するなど、患者、医師・医療機関どちらにとっても望ましからざる状況が生まれてきたのもこの10年の間の出来事です。そうした中から、医療事件における裁判外紛争解決手段(医療ADR)などにも注目が集まっています。また、医療事故や医療過誤を疑った場合のカルテなどの医療記録の入手も、この10年で、証拠保全手続を経ることなくカルテ開示請求手続により容易にできるようになりました。
 しかし、医療が高度化する中で医療事故もますます患者には分かりにくいものとなり、真実を解明したいという思いから、私たち弁護士に相談に訪れる患者、家族も少なくないのが実情です。

(3) また、医療問題の中でも「消費者事件型」ともいうべき事案が増えてきているように思われます。美容整形やダイエット外来、インプラント治療(歯科)など治療の必要性や緊急性がないために保険適用が外されている医療サービス(いわゆる自由診療)の中には、価格を自由に決められるために、集客を目的とした価格競争や過度の宣伝などが行われ、その一方で経費や労力の削減のために、本来行われるべき医療行為の質や説明などが疎かになったり、必ずしも必要でない処置が行われたりしてトラブルになることがあります。
 今後こうした事件が社会問題化することも懸念されています。

3 当事務所で取り扱った事例

 当事務所でも、様々な消費者事件、医療事件に取り組んでいます。

(1) 近年扱った消費者事件では、未公開株式に絡んだ投資勧誘事件が目立っていますが、これは消費者の無知や高齢の方の将来に対する経済的不安につけ込んだ悪質な詐欺事件ともいうべきものです。ある事件では、エネルギー分野での革新的技術の開発に成功したので、増資を図るために株式の引受先を探している、株式公開も準備が進められており、公開されれば株価上昇は必至などという甘い話で投資を持ち掛け、実際には株式公開に向けた手続など一向に進められておらず、技術開発の話も極めて疑わしいものでした。この件では早い段階で弁護士が関与できたため、投資額の大半を回収することができましたが、幸運な例と言わざるを得ません。実際その後も同じ被害者が繰り返しさまざまな投資勧誘を受け、だまされたと気付いたときにはすでに勧誘した会社自体が姿を消してしまったという事態に陥っており、被害回復の目途は事実上断たれています。残念ながら、こうした事例が少なくないのもまた事実なのです。

 また、集団詐欺事件の被害者に対して、架空の集団訴訟への参加を呼び掛け、調査費用や弁護士費用などの名目で金銭を騙し取ろうとした事件などもありました。この件では、金銭支出前に弁護士に相談したことで、二次被害を未然に防ぐことができました。

(2) 消費者被害的な医療事件といえば、銀座眼科レーシック事件も、そのような事件のひとつでした。眼鏡やコンタクトレンズを使うことなく近視を矯正したいという願いにつけ込み、広告や相場よりも安い価格設定、お友達割引などのキャンペーンなどで集客する一方、宣伝費の圧迫や安い価格設定などのしわ寄せが衛生管理にいき、器具を十分に滅菌処理しないなど極めて不十分な衛生管理をしたことで多くの患者に角膜炎を発症させ、激痛や失明の恐怖で苦しめました。刑事裁判では銀座眼科の院長は業務上過失致傷罪で禁錮2年の実刑という厳しい刑が確定しました(民事事件では和解)。

(3) プライバシーにかかわる問題ですので、すべてをご紹介することはできませんが、ほかにも消費者事件や医療事件は継続的に取り扱っており、今後もこうした事件の解決に力を注いでいきたいと考えています。