[特集 私のおすすめスポット]

 

 村上春樹が大学在学中に国分寺でジャズ喫茶を開いた話は有名です。

 楽曲はもっぱらインターネットからダウンロードして聞く現代では、LPレコードを何千枚もそろえ、ひたすら大音量でジャズを流し続ける「ジャズ喫茶」なる営業形態はもはや歴史上の存在といってよいかもしれません。高校生の頃に学校をさぼって行った桜木町のダウンビート、大学生の頃に学校に行かずに通った歌舞伎町の木馬、DUG、中野のビアズレー、渋谷のジニアス、吉祥寺のOutbackなどといった店は今ではすっかりなくなったか、現代風に姿を変えてしまっています。

 祥平館ビルを出て四谷見附の交差点を右に折れ新宿通りを少し行くと、地下からモダンジャズの調べが聞こえてきます。「いーぐる」は、ジャズ評論家としても知られる店主が1967年に開店した老舗のジャズ喫茶で、往時の雰囲気をそのまま残している稀有な存在ではないかと思われます。いまどきお目にかかれないJBLのどでかいスピーカーからはひたすらジャズが流れ続け、店内は午後6時までは会話禁止という貼り紙があるのがしびれます。昼間は閑散としており、客は私同様に昔懐かしさで来る中年親父が多いようです。コーヒーの味もスタバやドトールで飲むのとは違うあの頃の味です。

 時代のトレンドに逆行するタイムスリップした空間としてひと時を過ごす場所といったら店主に怒られるでしょうか。後藤さん、頑固にがんばってくださいね。