5月29日の朝日新聞の論壇時評の作家高橋源一郎氏の表題の記事が目についた。内容は、今年3月18日から24日間「中台サービス貿易協定」の締結に反対して立法院を占拠した台湾の数百名の大学生たちの運動の後始末の話である。占拠が20日間を過ぎ学生達の疲労も限界に達した頃、立法院長(議長)から学生達の要求をも加味した魅力的な妥協案が提示されたそうである。長期間の座り込みの疲労からか、しばし動揺の気分が流れた直後、一人の学生が手をあげ壇上に立って「撤退するかどうかについて幹部だけで決めるのは納得できません。」と発言したところ、驚くべきことに、占拠学生の指導者林飛帆は、丸1日かけて占拠者全員の意見を聞いて回った。その結果、林は立法院長の妥協案の受け入れを表明したが、件の学生は再び壇上に立ち、私は撤退に反対だが「でも、ぼくの意見を聞いてくれたことを、感謝します。ありがとう。」とのべて静かに壇上から降りた。学生達は、その後2日間かけて院内をくまなく掃除したあと、運動のシンボルだったヒマワリの花を一輪ずつ手に持って静かに立法院を去ったという。同氏は、「この小さなエピソードの中に民主主義の本質が浮かび上がったようだった」と書いた上、民主主義とは、多数派が全てを決定し少数派は従うしかないのか、そうではなく意見の通らなかった少数派が、それでもありがとうといえるシステムであることを、彼等がわれわれに示してくれたのではないかと切々と述べている。昨今の日本の政治情勢とわれわれの対応と比較して、上記一連の経過と学生らの行動は、われわれに多くの教訓と自戒の念を与えずにはいられない深い思いにかられた。