■ 自然災害と原発事故 ■

仲村渠: 今回の座談会のテーマは「2011年を振り返って」とのことですが、私にとって今年は弁護士1年目の年ということもあり、とても印象深い年となりました。それにしても、今年は地震や台風など自然災害が多発した年になりましたね。

加 納: その中でも、東日本大震災と原発事故の話題は外せないでしょうね。あれから8か月が経ったけれど、震災からの復興どころか復旧さえまだまだ道半ばという状況でしょう。その足かせになっているのが原発事故による放射能汚染。これは、福島県内だけじゃなくて、首都圏でも問題になってますね。

井 澤: 千葉県の柏市で、市有地の土壌から高濃度の放射性セシウムが検出されたっていう報道もあったなぁ。うちは娘が女の子を出産したばかりだから、少し心配だったよ。

仲村渠: 小さなお子さんがいらっしゃると確かに心配ですよね。首都圏の自治体でも、高い線量が計測されたところの除染に取り組んでいるようですが、予算の限界もあって全てに対応することは出来ない状況のようです。

井 澤: いずれにしても、チェルノブイリの例を見ればわかるように、この問題はここ2、3年で解決できるものではなく、数十年先まで取り組んでいかなければならないものだね。首都圏での除染費用の補償のあり方も、今後問題になってくるだろうね。

仲村渠: 補償といえば、被災者の方についての原発事故補償請求は9月ころから始まりましたね。

加 納: でも、東京電力が配布した原発事故賠償請求書は、説明書だけでも150頁以上もあって、弁護士でもある枝野経産大臣でさえ「読み切れる中身ではない」と批判するほど複雑なものなんですよ。避難生活で打ちひしがれている方々にとっては、そんな説明書類を読めと言われるだけでも酷だというのに。

井 澤: わかりにくいだけではなく、補償範囲も十分なものとは言えないのではないかな。それに、中にはその後の賠償請求を放棄させるような内容も含まれている点も問題だね。

加 納: こんなときこそ、弁護士が被害者のサポートをしていくことが大切なんですね。既に、地元福島はもちろん、各地の弁護士会が賠償請求書に関する質問を無料で受け付けていますし、どうしていいか分からずに困っている方は安易に請求を出したりせず、私たち弁護士に相談してほしいですね。

 

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仲村渠: 自然災害といえば、台風被害も印象的です。そういえば、井澤先生は旅行先で台風にぶつかっていましたよね。

井 澤: 台風12号だね。あれは本当に災難だったなあ。せっかく南紀白浜でのんびり過ごそうと思っていたのに、台風の直撃でなんにもできなかったよ。まあ沖縄旅行中に台風に巻き込まれた江森先生よりはましか。

加 納: でも地震と違って台風が来るのは分かっていたんですから、覚悟の上で出掛けたんじゃないですか。事務所への影響でいえば9月21日に首都圏を直撃した台風15号の方が大きかったですね。

仲村渠: ああ、あれは本当に酷い台風でしたね。電車は止まるし、うちのビルも風で揺れていたし、近郊の裁判所に行った先生は足止めになって帰るのも大変だったみたいですよ。

加 納: うちの事務所も震災を機に改めて防災を意識して保存水や懐中電灯を買い揃えたり、防災への取り組みも意識してやり始めたけれど、事務所はお客様をお招きする場所でもあるから、そういう観点からもきちんとした災害への備えを充実させていく必要がありますね。

 

■ 注目判決、条例 ■

加 納: 自然災害以外の問題も振り返ってみましょう。賃貸住宅の更新料問題で7月に最高裁判決が出ましたね。 2009年に大阪高裁で更新料支払特約を消費者契約法違反で無効とする判決と、逆に有効とする判決が出されて、最高裁の判断が注目されていたんです。本紙2010年正月号(63号)でも、船江弁護士が法律相談コーナーで取り上げていましたね。

仲村渠: 最高裁の結論は、「更新料が高額過ぎなければ有効」という判断でした。もしも更新料が一律無効ということになったら、各地で更新料返還請求の裁判が相次ぐんじゃないかと一部では話題になっていましたが、穏当な結論になったという印象でしょうか。

井 澤: 敷金の問題でも同じような最高裁判決がなかったかな。

仲村渠: 3月と7月に「敷引金」についての判決が出てますね。「敷引金」は主に関西の習慣で、東京で言うと敷金よりむしろ礼金に近いものです。

井 澤: なるほど。名前は似ているけど、少し性質が違うわけか。

加 納: これも、結論は「高額過ぎなければ有効」ということでしたね。

井 澤: 最高裁は、現状追認的な判断を示した格好だけど、実際はどうだろう、最近は敷金の精算も貸主に厳しくなっているし、礼金や更新料も低額になっていたり、礼金不要なんていう例も増えてるんじゃないかな。

 

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仲村渠: 10月には東京と沖縄で暴力団排除条例が施行されて、全都道府県に暴力団排除条例が整備されたことになりました。

加 納: 時期的には前後しますけど、有名タレントが暴力団との交際を理由に引退したのはセンセーショナルでしたね。ただ、暴力団排除は芸能界だけの問題ではありません。

井 澤: もちろん。例えば、事業者が暴力団員などに利益供与をすることが禁止されてるわけだけど、ここにいう「利益供与」なんかはかなり広い概念だからね。警視庁のホームページにもあるけど、トラブル解決を暴力団に依頼して金銭を払うとか、暴力団員にみかじめ料を払うなんていう古典的な利益供与だけじゃなくて、暴力団組長の襲名披露パーティーのために宴会場を貸すとか、暴力団事務所の内装工事をするとか、暴力団員の名刺や年賀状を印刷するとか、普通なら正当な契約になる場合でも、相手が暴力団員などの場合には禁止の対象になるし、警察からの勧告を受けることもある。

仲村渠: でも、相手が暴力団関係の人と知らなければ、禁止の対象にはならないんじゃないですか。

井 澤: その代わり、契約の相手方が暴力団関係者でないかを確認する努力義務が条例に定められているんだ。

加 納: 後になって契約の相手方が暴力団関係者だと分かっても、当然に解約できるわけじゃないから、対策が必要ですね。

井 澤: そう。だからそれも条例に書いてある。暴力団関係者であることが判明した場合には契約を解除できるように特約を設けましょうと。条例の定めは努力義務だけど、企業防衛という観点からは、できる自衛策は講じておいた方がいいだろうね。

 

■ 心温まるニュースなど ■

加 納: 先ほど東日本大震災の話題が出ましたが、そのときの一般市民のボランティア活動や募金活動など、多くの市民ができることから手助けしていこうとしている気持ちが行動されたことは心暖まるニュースだったかもしれません。

井 澤: 市民からそのような動きがあったことは確かに良いニュースと言えるね。今後それをどう継続してやっていけるかが、10年、20年という時間のなかで、東北地方の復興を考えると重要なことだろうね。それにしても、政府の対応は遅すぎると言われても仕方ない状況だよなあ。

加 納: 一般市民の中で助け合いという意味で、去年の暮れくらいから今年の始めころまで、いわゆるタイガーマスク運動がありましたね。施設の子供達に匿名でランドセル等を送るというような。

仲村渠: 確かに漫画の世界と同じで、一種の騒動になりましたね。

井 澤: これまで、そのようなことはなかったのか、報道もされなかったのかわからないけど、日本の中の格差社会のひずみのなかで、起こった現象という感がするね。

仲村渠: 一方で報道に踊らされて一種のブームになった感は否めませんが、貧しい子供達に少しでも援助にしたいという気持ちには良かった面もあったと思います。

 

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加 納: 今年は震災、原発事故、台風と災害続きで、なかなか明るいニュースがありませんでしたが、スポーツの世界では、なでしこジャパンがワールドカップ優勝ということがありましたね。

仲村渠: ワールドカップ優勝という男子でも獲得したことがない世界の頂点に輝いたことは本当に素晴らしいし、沢選手は最高殊勲選手にも選ばれましたしね。

井 澤: その他にもスポーツの世界では、内村航平選手が体操世界選手権の個人総合で金メダルを獲得したり、競馬の世界ではオルフェーヴルの3冠達成、世界最高峰のレースであるドバイワールドカップでの日本馬のヴィクトワールピサの優勝なんてこともあったね。

仲村渠: それなんなんですか。

井 澤: あくまで私の趣味で。

加 納: 来年からまさに震災復興、原発災害からの復興という正念場を迎えていきますが、気持ちを前向きに取り組んでいきたいものですね。

仲村渠: 私達法律家もできることをやっていくことが求められていますね。

井 澤: あまり肩肘はらずに、長期のものになるだろうから。

 
 

(この座談会は2011年11月14日に行われました。)