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「カンマ」から「テン」へ

 

この記事は約 4 分で読めます。

ちょうど1年ほど前に公式ブログに書いた「読点とカンマ問題」という記事が、この1か月の間よく閲覧されています。
どうやら、先月末に開かれた文化審議会国語分科会国語課題小委員会で、半世紀以上前に決定された「公用文作成の要領」の、句読点のルールを見直すことになったことが、理由のようです。
https://this.kiji.is/694831351014671457

この見直しが行われることになったのは、世間はもちろん中央官庁でさえも「カンマ・マル」(,。)は少数派で、「テン・マル」(、。)が一般化しているのが理由だそうです。
国の機関の公式サイトで「カンマ・マル」を使っているのは、裁判所法務省外務省 1宮内庁などに限られているとか。

そもそも横書きの読点が「、」ではなく「,」を使うこととされた理由ははっきりしていません。
もともと横書きの英字や数字に馴染みやすいという説もありますが、漢字や仮名の区切りとしてどうかという話なので、説得力がありません。
まして、句点を「.」ではなく「。」のままにした理由の説明がありません。
実際、理系の文章では、「カンマ・ピリオド」(,.)で書かれていることも多く、その方がよほど一貫しています。

これに対して「活版印刷の都合」説というのがあります。
この説を唱えている人はあまり見かけませんが、以下のとおり、非常に実務的で説得力があります。

正方形のマスで区切られた原稿用紙に文章を書くことを想像してみてください。
縦書きの句読点は1文字分のスペースの右上に打ちますが、横書きの場合は左下に打つことに気付くと思います。
通常の文字は、縦書きでも横書きで文字の形が変わったりしませんが、句読点は位置が変わるという特徴があるのですね。

手書きの時は、縦書きと横書きで無意識のうちに句読点の位置を変えているのですが、これが活版印刷の場合は事情が異なります。
「活字」は1文字ごとの字型が決まっているので、句読点の位置もはじめから決まっています。

ところが、句点(。)の場合は、うまい解決方法があるのです。
縦書き用の活字を180度ひっくり返せば、右上の句点が左下にピタリとおさまる。何ということでしょう。

これに対し、読点はそうはいかない。
縦書きで右上に打つ「、」は、180度ひっくり返せば左下に行きますが、筆運びが逆になるので、句点のようにはうまくいかないのです。
横書き用の「、」の活字を作る手もありますが、文章の中に頻繁に登場する読点の活字は、大量に作らないといけません。
そこで、いっそのこと英文用の「,」を流用しようという考えが出て来た、というわけです。

そうして印刷上の都合に合わせて「公用文作成の要領」が定められ、縦書きの句読点は従来どおりテン・マル(、。)、横書きの時は「カンマ・マル」(,。)とされました、と。

句点を「.」にしなかったのも、日本語表記では従来どおり「。」を使う方が自然ということだったのでしょう。

時代が下って現代では、日本語ワープロやPCが普及し、横書きの「、」も問題なく手軽に表記されるようになったので、もう活字の心配は不要です。
そうなると、「公用文作成の要領」を後生大事にする一部のお役所を除いて、姑息的対応に過ぎなかった「カンマ・マル」を使い続ける合理的な理由もなくなったので、見慣れた「テン・マル」が横書きでも広く使われるようになり、現在に至った、というわけです。

先日菅首相が、アメリカ大統領選挙で当選確実となったバイデン氏に、ツイッターで祝意を示したというニュースがありましたが、実際にそのツイートを見に行くと、他のツイートは「テン・マル」なのに、ここだけ「カンマ・マル」で書かれています。
https://twitter.com/sugawitter/status/1325188268078477313
個人ツイート(事務所スタッフ運営)のはずですが、これだけは外務省が書いたのだろうと推測されています。バレちゃいましたね。

わが業界では、裁判所が「カンマ・マル」を維持していることから、「カンマ・マル」派が少なくないと思いますが、「テン・マル」は素人っぽいとネットで公言している弁護士も見かけますし、判決前などに主張書面のデータ提供を求められた際に「テン・マル」のデータを裁判所に渡すと、裁判所に読点の置換作業をさせることになり、余計な手間を取らせることになるので、裁判所の心証を害さないためにも弁護士は「カンマ・マル」であるべきだという、触らぬ神にたたりなし的な弁護士先生もいらっしゃるようなので、ふーんと思っています。

遠くない将来、裁判所が「テン・マル」にシフトしたら、素人っぽいとか言ってた先生はどうするのかと思うと、ちょっと心配になります。

ちなみに、東京中央法律事務所の公式サイトやブログは、ずっと前から「テン・マル」ですが、一応弁護士が書いています。念のため。


1. 外務省のサイトは「カンマ・マル」らしいと書きましたが、いつの間にか「テン・マル」になっていました(2020.11.30現在)。
上記の菅ツイートがまずかったのでしょうか。ツイート自体削除されています。
「カンマ・マル」派はますます少数ですね。

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