有責配偶者からの離婚請求

不倫して出て行った夫が離婚すると言い出しました。離婚したくありませんが、どうしたらいいでしょうか。

 不貞は離婚原因となりますが、不貞をした側(「有責配偶者」と言います。)からは、原則として離婚を拒む配偶者に対して離婚請求をすることはできません。ただし、夫婦関係が完全に破綻している場合は、有責配偶者からの離婚請求でも一定の条件のもとに許されるようにはなっています。
 あなたの方で、まだ夫との夫婦関係を回復できるというお気持ちがあれば、家庭裁判所に調停を求め、夫婦関係の調整の話し合いをすることはできます。不幸にして離婚ということになる場合は、有責配偶者に対して慰謝料の請求ができます。

ドメスティック・バイオレンス(DV)

結婚後、夫から暴力を受けるようになりました。離婚したいですが、夫には怖くて言えません。もうすぐにでも逃げ出したいです。

 離婚には、協議離婚、調停離婚、裁判離婚といった種類があり、大半の離婚は、夫婦の話し合いで決める協議離婚です。しかし、夫婦(あるいはこれに変わる親族、友人等の仲介)で話し合いが出来ない場合は、裁判所を利用するしかありません。この場合は必ず家事調停を経る必要があります。
 家事調停で不調(離婚自体、あるいは離婚の条件について話し合いがまとまらない場合)の場合は、裁判(人事訴訟と言います)で離婚を求めることになります。この場合には、民法で定められた一定の離婚原因があることが必要とされますが、暴力は離婚原因となります。暴力がひどい場合は、警察や行政に相談した方がよいでしょう。

妻の暴言がひどく悩んでいます。私が何をやっても罵倒されるし、収入や性格、体格なども否定されてもう限界です。私は男ですし、暴力は振るわれていませんが、これもDVになるんでしょうか。

 言葉の暴力も、夫婦関係の維持を困難にさせる事情となる場合はあります。ただし、物理的な暴力と違って、言葉の「暴力」は、発言の内容だけでなく、発言された際の事情、暴言の頻度等によって、法的に離婚原因となり得る程度のものと言えるかどうかが違ってくるでしょう。たとえば、夫婦喧嘩では、お互いが悪口を言うのは普通でしょうが、だからと言って直ちに離婚が出来るわけではありません。

子の連れ去り

妻が子どもを連れて出て行き、離婚すると言っています。離婚はともかく、子どもとは離れたくないです。なんとか子どもを連れ返せないでしょうか。

 離婚をする際に未成年のお子さんがいる場合は、子の親権を決める必要があります。また、子の養育に関し、父母のどちらが育てるか(監護権の問題)や養育費についても決める必要があります。
 既に妻がお子さんを連れて家から出て行った場合は、特別な事情がない限り、強制的に連れ戻すことは困難ですが、離婚の条件の1つとして、上記のような内容の取り決めを冷静に話し合う必要があります。
 話し合いは裁判所に調停を申し立てて行うのが一般的です。この場合、どちらが子どもといたいかという父母の気持ちも大事ですが、「子の福祉」(子どものためにどのような環境が一番良いか)が優先されますので、それを念頭に置いてください。親権や監護権が取得できない場合は、子との面会の条件を決めることとなります。

親権と養育環境

夫と離婚したいです。まだ小さい子どもがいるのですが、この子の親権だけは渡したくありません。ただ、専業主婦だったため無職で収入がないので心配です。収入がなくても親権を持つことはできるでしょうか。

 お子さんの年齢にもよりますが、一般に就学年齢以前の子だと親権(あるいは監護権)を母親に認める傾向が強いのは確かだと思います。子を育てるための経済力がどちらにあるかは重要なポイントとなりますが、経済的問題は養育費をきちんと払わせればよいという考えになります。ただし、養育費はあくまでも子の養育のためであり、別れた配偶者の生活費まで含むものではありません。したがって、あなたが無職のままで子どもを育てるということになると、その他の養育環境も踏まえてみると、必ずしもお母さんの側に親権や監護権が認められるわけではないことに注意して下さい。

別居中の親子の面会

酒癖の悪い夫と離婚することになり別居中ですが、夫が子どもとの面会を求めています。子どもも怖がっていますし、絶対に会わせたくありません。

 同居していない親は、離婚の前後を問わず、別れて暮らしている子に対して面会を求める権利があるとされています。もっとも、この権利は親の権利というよりは、未成年の子の成育過程で別居親とも交流する機会を保証することが子の福祉にかなうと考えられているためです。一般には、面会を求める親から、その条件に関する請求があるのが普通です。離婚することになっているということなので、離婚の話し合いの中で面会交流の条件についても話し合うことになるのでしょう。
 酒癖が悪いということは素面のときはどうなのでしょうか。飲酒の上で絶対に面会はしない、という条件を付ける必要があるかもしれません。なお、子が15歳以上になっていると、親に会う会わないの条件も、子の意向が大きく尊重されることになります。

養育費の不払い

離婚した元夫が養育費を全く払ってくれません。何か方法はありませんか。

 養育費について、元夫との間にどのような取り決めがあるかどうかが、まず問題となります。具体的な取り決めがあって、その履行がない場合は、法的にこれを確実に請求するには、民事訴訟手続を起こすことになります。なんとなく支払われていたけれど、明確な取り決めがない、あるいは今まで支払われていた額が不相当なのでその額を変えたい、という場合は、家庭裁判所での手続が可能です。まず、家事調停を申し立て、話し合いがつかない場合は、家事審判という裁判手続により養育費の額が決定されます。裁判所で確定した養育費については、不払いがあった場合は、裁判所から履行勧告をしてもらえるほか、強制執行(元夫がサラリーマンの場合は給料の差押えが効果的です。)が可能となります。

婚姻費用(別居中の生活費)の分担

夫が離婚をしたいと家を出て行きました。お金の管理は全て夫がしていたのですが、それ以降まったく生活費も入れてくれず困っています。どうしたらいいですか。

 今後夫婦関係がどうなるかわからないとしても、一定の結論が出るまでの間も、夫婦のうち経済力があり世帯の生活を維持していた側は、そうでない側に一定額の生活費(婚姻費用)を支払う義務があります。婚姻費用の支払い請求は、一般に、離婚調停の申立てとともに申立てられることが多いのですが、夫婦双方の収入に応じて、収入の多い方が少ない方に支払う婚姻費用を話し合い、又は裁判所の決定で決めてくれます。婚姻費用の支払い時期は、夫婦が再度同居をはじめるまでか、離婚により夫婦関係を解消するまでとされるのが一般的です。

離婚と財産分与

妻が不倫して別れることになりましたが、結婚後に買った私名義の自宅や預金などを分けろと言ってきます。あまりにも身勝手だと思うのですが、分けないといけないでしょうか。

 妻の側が不倫をしたことが原因で離婚になるとすると、夫の側は、有責配偶者である妻に対して一定額の慰謝料を請求する権利があります。しかし、婚姻生活中に夫婦で形成した財産の清算の問題(財産分与と言います。)とは別で、財産分与は、離婚に対する責任がどちらにあるかどうかは別として、離婚時又は婚姻生活が実質的に破綻した時点を基準として、その時点である夫婦の財産を、基本的には2分の1ずつにして清算します。
 この場合、婚姻生活中に形成した財産であれば、夫の名義であるか妻の名義であるかは問いませんから、家の名義が夫になっていたとしても、その半分は妻の権利となります。ただし、不動産の場合は、取得する際の住宅ローンが残っていたり、それぞれの親から援助を受けた分をどう評価するかというような問題があり、また、そもそもその不動産をいくらと評価するかという問題もあり、必ずしも単純ではありません。
 通常は、財産分与と慰謝料とを含めて離婚給付といい、財産分与を受ける側が慰謝料を支払う側になる場合は、夫婦の共有財産の2分の1から慰謝料相当額を控除した残額が、支払いの対象となり離婚給付となります。

長期の別居と離婚

離婚したいと言っても応じてくれない妻と別居してからもう10年経ちます。私にはすでに他の女性と家庭もありますし、正式に離婚して彼女と結婚したいのですが、妻はいつまでも待つと言って離婚してくれません。どうしたらいいですか。

 基本的に有責配偶者からの離婚請求は認められないとされています。しかし、そうはいっても完全に破綻して夫婦関係が形骸化している夫婦を一方配偶者の意思だけでいつまでも夫婦のままにするのも不都合な場合が多いでしょう。特に、有責配偶者が他に家庭を持っている場合は、形骸化した婚姻関係を維持する意味はあまりないと言えます。
 この点に関する裁判例は時代によって変化してきていますが、現状では、夫婦の間に未成熟子がいない、離婚によって有責配偶者でない側の配偶者が経済的困窮に陥ることがない、夫婦関係の形骸化が一定の期間継続している等の要件を満たせば有責配偶者からの離婚請求も認められる場合が多いでしょう。他の要件が満たされれば10年以下の別居期間でも離婚を認めた例はあります。有責配偶者に離婚を認める代償は、慰謝料支払い義務を課すことで調整することになります。

意に反する離婚届

知らないうちに勝手に離婚届を出されていましたが、なんとかなりませんか。

 この場合は、協議離婚届けのことを言っていると思いますが、協議離婚届けは、夫婦双方と2名の証人の署名・押印が必要とされています。しかし、それぞれが真正のものであるという確認を窓口でとる方法はないので、偽造をしようと思えば簡単にできます。また、夫婦げんかをして、その勢いで書いてしまった協議離婚届けを後日利用されるという例もあります。しかし、結婚も離婚も、届出をする時点での当事者双方の意思が合致していることが絶対的な要件とされています。したがって、このような事情から離婚届けが受理されたとしても、あなたが離婚に同意していない以上、離婚は無効となります。
 しかし、いったん戸籍に離婚の記載がされてしまった以上、これを無効として戸籍を訂正するためには、身分関係の安定を保つ必要から必ず裁判所の判決による手続が必要とされます。このような事態になると面倒でもあり、他にも影響を与えることが多いので、相手方配偶者が勝手に離婚届け出さないようにするためには、離婚届けの不受理申出を戸籍のある市町村役場に提出しておくと、一定期間受理されません。