弁護士 加藤文也

 東京都は、国際的にみても異例ともいえる学校の卒業式等で国旗・国歌を実質上強制する通達を2003年に出して以来、その状況を今日まで続け、この間、起立斉唱命令に従わなかった教職員を懲戒処分に付すとともに、定年退職後も様々な不利益な取り扱いを続けています。

 これまでいくつもの訴訟が提起されてきましたが、本年6月には、定年退職後の再雇用拒否が問題となった事件で最高裁で弁論が開かれ、さらに本年4月に東京高裁で第4次訴訟の判決があり、この判決に対しては、双方とも上告したので、今後最高裁で審理されることになりました。

 最近の裁判所の動きとして注目すべきことは国際条約を積極的に活用する動きが強まってきていることです。例えば、相続における婚外子の差別が問題となった事例などで、国際条約をわが国の裁判規範として積極的に引用した上で、違憲判断を下す事例が増えています。

 国連自由権規約委員会は、2014年に、東京都において卒業式等で国旗・国歌が実質上強制され、それに従わない教職員が処分されている状況を踏まえ、日本政府に対し、「自由権規約第18条(思想、良心及び宗教の自由)第3項に規定された厳格な要件を満たさない限り、思想、良心及び宗教の自由に対する権利への如何なる制限も課すことを差し控えることを促す。」との総括所見を示し、実質上、上記わが国(東京都)の対応が人権規約に反するとの所見を示しました。

 子どもたちと教職員が安心して生き生きとした学校生活を送ることができるようにするためにも、最高裁が国際条約を裁判規範として積極的に活用した上で、違憲判断をするよう強く求めていきたいと考えています。